4話 農民だって冒険がしたい

文字数 1,490文字

ふたたび郊外の農村にやって参りました
さぁ、洗いざらい吐いてください
ネタはあがってるんですよ、旦那さん
あの……何のはなしやらサッパリなんですが
それはそうとカルディナさん、さすがにニワトリを全部もって行くのは……
お薬の代金はどうにかするんで、半分くらい返してもらえないかい?
そこはほら、アレですよ
旦那さんの態度しだいと言いますか……
わたしも、悪いことしたなあ、とは思っていたんですけれどね……事情が事情ですので
(もうすでに悪魔に捧げました、自分の命が第一です)
アンタ!  いったい何をやらかしたんだよう!?
ほんとに分かんねえんだって……
では分かるように言いましょう
【ロック鳥】の件です
げっ!?
どういうことだい?
都市の露店商が教えてくれましたよ
すこし前から、旦那さんがロック鳥の羽を何度も売りに来てると
おそらく、上流階級のあいだでロック鳥の羽根飾りが流行っている、という噂を聞いたのでしょうね
ところで、魔物の素材が禁制品というのはご存知でしたか?
いや……それは……その……
アンタまさか……アタシに黙って危ない商売に手ェ出してたっての……?
手を出したのは商売だけですか?
露店商のはなしでは、稼いだお金で——
アアーッ!!  ワァーーッッ!!
あ痛ッ!?
背中が……キズが……
落ち着いてください、わたしは別にこの件を官憲に届けたり魔導院に知らせたり、なんてしようとは思ってませんから
(脅しだ……)
(脅しだね……)
ただロック鳥の巣の場所を教えてくだされば良いのです
そしてそのあとで、わたしがやることを決して口外しないように
はぁ……わかりましたよ
やつの巣は、農場の先にある山道を登って行ってですね——
〜説明中〜
ふむふむ……
たしかに、巣の作られた場所はロック鳥の特性と違いありませんね
少なくとも嘘では無いようです
そうでしょう?
そんでまぁ、正直に言ったんでこの件は……
ふたつめの条件を守っていただくかぎりは、わたしも沈黙を守りましょう
沈黙は美徳ですね、お互いのためにも……
ふふふっ
あっははっ…………はぁ……
そういえば、すこし気になることがあるのですが?
まっ、まだ何か!?
いえそんな大したことではなく……
(脅かしすぎましたか)
どうして、そんなひどいケガをしたのですか?
鳥の魔物に襲われたからじゃないのかい?
…………
魔物に襲われた原因が分からないんですよ
露店商に何度も羽を売っているということは、旦那さんは上手くそれを手に入れる方法を知っていたはず……
おそらく、巣に魔物がいない時間を見計らって、近くに落ちた羽を拾っていたのでは?
あぁ……
そんなでも、オレには結構な冒険だったがね
いつものとおり、ヤツが飛び去ったあとで、巣の近くに落ちてる羽を拾ってたのさ
いきなりでかい影がさしたと思ったら、その直後に背中を引っ掻かれたんだ
死にものぐるいで逃げ出して、あとはもうほとんど覚えちゃいねえ
アンタ……
本当に何も覚えていないのですか?
…………
確か、市の西地区に【銅の小冠】という宿酒場が——
卵だ!
巣の中に卵があったんだよっ!
なるほど
ひと抱えもあるようなデカい卵でさ、売ればたいそうな値段になると思ったんだ
あっきれた……
卵を盗まれたら、親鳥が怒るのなんて当たり前じゃない!
それでケガまでしてちゃ世話ないよ!
まあまあ……
でもこれで合点がいきました、ロック鳥は卵を守るために警戒して、気が立っていたのでしょう
カルディナさんが何をするつもりか分からんけど……
悪いことは言わねえ、いまヤツの巣に近づくのはやめときなよ
そうもいかないんですよね、わたしにも事情がありますので……
(……あるいは、獲物が増えたと喜ぶべきかもしれません)
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登場人物紹介

{カルディナ}


職業:魔導士
色々と残念

{グラムヴァラント}


種族:悪魔
世間知らず

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