第1話

文字数 1,109文字

「はは……ごめんよ。オレが君たちを仲間にしたばかりに……こんなことに巻き込んでしまって……」
 瀕死状態の男の周りには、魔物が4匹いた。
 それぞれが悲しげな表情で、男を見つめている。
「さあ……君たちは自由だ……どこにでも好きな場所へ行くんだ」
 魔物たちは首を横に振って、その場を動こうとしない。
「お願いだ……。君たちまで死んでしまったらオレは……」
 辛そうに泣く男を見て、魔物たちが顔を見合わせる。
「行って。そして未来を楽しんで……」
 魔物たちは男の願いを聞き入れ、その場を離れる。
 何度も、何度も後ろを振り向きながら。
 
 とある人間の町。
 そこでは夕方になってからやってくる人気の屋台があった。
 屋台とは言っても、屋台の周りにもイスや机を並べているので、そこそこお客さんが入るようになっている。
ボーン
「へい、らっしゃい!」
「今日も寒いねぇ~」
ボーン
「ですねぇ。今日は何にします?」
「そうだなぁ……じゃあ、あの白いスープのやつで!」
ボーン
「へいっ!」
 屋台の店主は深めの器に麺を入れ、白濁したスープをそこへ投入し、海草やきのこ、柔らかく煮た肉の塊を切ったものを入れていく。
ボーン
「おまちっ!」
「はふはふっ! ん~! いつも思うがこいつは絶品だ。体があったまるよ」
ボーン
「それなら良かったでさぁ」
「この白いスープ、一体何で出汁をとってるんだい?」
ボーン
「こいつは骨からとっているんで」
「へぇ~! そんなのがこんなに美味しいスープになるだなんてねぇ」
ボーン
「まあ、骨の扱いならあっしの得意分野、骨だけに――」
 妖艶な女性がバシッとボーンの後頭部を叩く。
サキュリ
「ほ、ほほほ。何を言ってるんだろうね?」
「はは。いつもあんたら仲いいよな」
「……実は夫婦?」
 客のこの言葉に周りの客も耳をそばだてる。
サキュリ
「ないない。あるわけがない。こんな骨しかないやつ――」
 サキュリは少年に腕を思いっきりつねられ、ひゃっとかわいい声を出す。
ドラン
「サキュリおねえちゃんも何を言ってるのかよくわからないよ?」
 ドランはにっこり微笑んでいるように見えるが、目はまったく笑っていない。
サキュリ
「う……」
「はっはっは。いや、ほんとこの屋台は面白いな」
ドライア
「ありがとうございます。あ、そちらのお客様はお会計でございますか?」
客2
「ああ、頼むわ」
ドライア
「かしこまりました。ほら、みなさん会話を楽しみながら手を動かしましょうね」
ボーン
「へーい」
サキュリ
「わかったわよ」
ドラン
「僕は最初からそうしてるけどね」
 やりとりを聞いていた食事をしている人たちから笑い声が上がる。
 これはおいしくてにぎやかなちょっと変わった屋台のお話。
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