第1話

文字数 1,941文字

 自分と石川県の出会いは、大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』が切っ掛けだった。
 あの日は偶然テレビがNHKになっていて、偶然第1話を観る。そしてこの偶然が切っ掛けでやがては石川県を訪れることになり、そこで人生に大きな影響を与える出会いがあるのです。


 偶然『利家とまつ~加賀百万石物語~』に出会った幼い頃の自分は、2話3話と視聴するにつれてその世界に没頭。やがては前田利家という人間に強い憧れを持つようになった。
 その結果毎年行っている家族旅行の行き先を石川県にしてもらい、前田利家ゆかりの場所や石川の名所を三日かけて巡りました。訪れた先にあるのは、どれも予想通り――予想以上に素晴らしく記憶に残るものばかりだったのだけれど、その旅で最も印象に残ったのは兼六園でのできごと。かの有名な、日本三大庭園の一つでの出会いだ。

 あの頃の自分は幼いが故に『ここにいる人達もみんな、利家とまつが好きで来てるんだ』と思い込み、手当たり次第に『利家とまつのどこが好きながっ?』(利家とまつのどこが好きなの?)と、土佐弁丸出しで尋ねていた。
 そうしてそんな調子で、60人前後に聞いたころだった。ドラマ『利家とまつ』に影響されて石川の地を訪れたという、栃木県から来た三十代半ばの夫婦と出会う。
 そして自分は早速『利家とまつのどこが好きなの?』と尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

『夫婦の関係性と愛、だね』
『私達は利家とまつを観て、考えが変わった。二人に救ってもらったのよ』

 そう告げた彼らは、すぐに『ぁ、ごめんね。ボウヤにはまだ、そういうのは分からないよね』と苦笑し、ここからは子供向けに簡単な言葉で説明してくれた。
 その二人は所謂エリート会社員と元同僚であり現在は専業主婦となっている関係で、結婚当初は円満だったのだけれど、どちらも相手に対する不満が溜まってきていた。
 奥さんは元同僚である夫がバリバリ働き活躍する姿を見て、『自分も会社にいたら、ああなってたのに……』『子供を産むのも世話をするのも私で、不公平……!』。
 旦那さんは時折そんな素振りをみせる妻を見て、『俺が働いているからこの生活があるのに……』。
 そう思ってだんだんと口げんかをするようになり、関係性は時間に比例して悪化。別居、離婚も考えたらしい。

 けれどその日――『利家とまつ~加賀百万石物語~』の放送日。二人は自分と同じく偶然第1話を観て、利家とまつに興味を持つ。そして話が進むにつれて利家とまつの関係性を深く知り、それぞれの心が変化する。

 前田利家とまつといえば、有名なおしどり夫婦。数々存在する夫婦愛に満ちたエピソードの他にも末森城の戦では利家に対して嫌味を放つなどのエピソードがあり、いい意味で遠慮がない関係だったとされています。

 それを知った奥さんは『まつは、私みたいな事を全然考えてない……』『そっか。こういう活躍もあるんだ……』と感じ、旦那さんは『俺がこうしていられるのは、妻の存在があるから。それこそ前田利家のように、支えてくれる人がいるから活躍できてるんだ』と感じ、お互い相手に謝罪をしたそうです。

 あの時の自分はあまりに幼く『どうしてそんなことで喧嘩してたんだろ?』と思っていたのだけれど、歳をとるにつれて分かるようになりました。大人になると色々考えられるようになり、そうして色々と考えてしまうようになり、どうしてもモヤモヤが生まれてしまうもの。そしてそのモヤモヤは簡単に拭い去ることができず、夫婦の場合はこの二人のように、別居や離婚となるケースも多々あります。

 しかしながらそんな厄介なものを、利家とまつが――利家とまつの生き様が、取り払ってしまった。
 死後もなお人々に強い影響を与え、諌めるのは、本当にすごいこと。自分もやはり当初は『加賀百万石』などの大きなエピソードに興奮してしまい、勿論今でもそれらについても尊敬しているのですが、現在は二人のそういう関係に最も惹かれています。

『利家とまつ。この二人がいなかったら、加賀はこうなっていなかったと思う。利家だけでも、まつだけでも駄目だった。あの二人が夫婦となって共に歩んだからこそ、この景色があるんだ』

 あれから石川の地を訪れるたびにそう感じ、利家とまつに対する敬意は回を重ねるごとに強くなっていっています。
 なので――。もしもこの文章を見てくださっている人の中に夫婦仲が今一つの方がいらっしゃいましたら、是非利家とまつに触れてみてください。できれば石川県に行き、直に触れ合ってみてください。
 そうすればきっと、変化がありますよ。

 石川県は、『夫婦の絆』が育んだ地なのですから。
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