第6話(3)マウントからの急展開

文字数 1,926文字

「もういいですか? 次は移動教室ですから。皆さんも遅れないように」

 青龍は颯爽とその場を去る。聡乃が照美に問う。

「に、日光さんは本郷さんを引き入れることが出来るのでしょうか?」

「さあね……私たちも急ぎましょう」

 調理実習室に向かうと、本郷の席の近くに日光が立っている。本郷が首を傾げる。

「あの……貴方と私は違う班ですが?」

「本郷青龍……」

「はい」

「俺は自慢じゃないが、中学の時、全国統一模試で100位台に入ったことがある!」

「え、ええ⁉」

「突然の成績マウント⁉」

 聡乃と照美が戸惑う。日光が見せた端末の画面を見た青龍がフッと微笑む。

「ああ、その模試でしたら、私は二桁順位でしたよ」

「なっ⁉」

 日光が愕然とする。照美が頭を抑える。

「三桁順位でなんでイケると思ったのよ……」

「お、俺は中学一年生の時、既に身長160センチ台はあった!」

「え、えええ⁉」

「昔の身長でマウント⁉」

 聡乃と照美が再び戸惑う。青龍も流石に戸惑い気味に答える。

「あ、ああ……私は中一の頃には170センチ台でしたが……」

「なっ……!」

 日光が唖然とする。照美が俯く。

「現在は身長差だいぶあるし、過去上回っていたとして、それが何になるのよ……」

「う、ううむ……!」

「え、ええ……」

「マウント取る材料が尽きたの?」

 聡乃と照美がある意味戸惑う。青龍が思い出したかのように告げる。

「ああ、ちなみに私はデイトレーダーをやっておりまして……」

「!」

「毎月これくらいの収入があります」

「‼」

 青龍が表示した端末の画面を見た日光は驚く。

「まあ、自慢するほどのことではありませんが……」

「なっ……」

 日光が呆然とする。照美が膝に手をつく。

「もう見ていられないわ……」

「に、日光さん、呆然と立ち尽くしていますね……」

「学歴・身長・収入でマウントを取られてしまったからね……」

「ど、どうするんでしょう?」

「さあ?」

 聡乃の問いに、体勢を戻した照美が首を傾げる。

「……まだだ」

「え?」

 日光の呟きに照美をはじめ、周囲の視線が集まる。

「まだだ! まだ勝負はついていない!」

「勝負をしていたつもりはないのですが……」

 日光の言葉に青龍が困惑した様子で答える。

「これからだ、本当の勝負は!」

「こちらの言葉は無視ですか……」

「今から何が行われる?」

「え? 調理実習ですが……」

「そうだ!」

「そ、それが何か?」

 青龍の問いに日光は腕を組んで頷く。

「ふむ、なかなか良い質問だ」

「質問というか、疑問ですが……」

「これから俺と貴様で料理対決を行う!」

「ええっ?」

「どちらがより審査員の舌を満足させられるかで勝負だ!」

「い、いや……」

「どうした? 驚いて声も出ないか?」

「そ、そうですね、あまりにも展開が急過ぎて……」

 日光の問いに青龍が頷く。

「料理は三品まで、何を作ってもいい」

「は、話を強引に進めますね……」

「なんだ、逃げるのか?」

「! いいえ、受けて立ちましょう」

 青龍が日光を見つめる。日光が笑う。

「そうこなくてはな」

「ちなみに審査員はどなたですか?」

「この三人に頼む」

 日光が朱雀、玄武、白虎を指し示す。青龍が首を捻る。

「……公平さに欠けませんか?」

「審査は公平に行ってもらう。俺にもプライドがあるからな」

「プライド、まだ残っていたのね……」

 照美が小声で呟く。日光が声を上げる。

「それではあらためて……料理対決だ!」

「あの~盛り上がっているところ悪いんだけど……」

「どうかしたんですか、先生?」

 照美が調理実習担当の教師に尋ねる。教師は言い辛そうに説明する。

「こちらの手違いで、食材のストックがほとんど無いんだよね……」

「えっ⁉」

「こんな具合で……」

「こ、これでは、出来る料理なんてたかが知れているわ……」

 教師が指し示した食材を見て、照美が啞然茫然とする。

「……問題ありませんよ」

「本郷君⁉」

「料理に取り掛かります」

 青龍が調理を始める。手際良く料理を完成させていく様に照美たちは驚く。

「こ、これは……⁉」

「……出来ました」

 テーブルに三品の料理が並ぶ。照美が問う。

「本郷君、これらの料理は?」

「世界三大料理と言われる、フランス料理からキッシュ、中華料理からチャーハン、トルコ料理からケバブです」

「せ、世界三大料理……」

「さあ、お召し上がりください」

「うん、このキッシュは美味しい!」

「こんなチャーハン、どんな町中華でもまず食べられないよ!」

「ケバブの肉厚ぶり、最高だぜ!」

 朱雀、玄武、白虎は口々に青龍の料理を絶賛する。

「あ、あれだけの食材からあっという間にこれだけの料理を……」

 聡乃が感嘆とする。照美が呟く。

「これが『スパダリ』の能力が成せる業……」

「……俺の番だな」

「日光君⁉」

 日光の言葉に照美は驚く。
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