第1話

文字数 1,171文字

こんにちは。…今日は参拝客が多いですね。
丁度、今日はもう門を閉めようとしていたのですが…。まあ、いいでしょう。
貴方の願いは何ですか?さあ、お堂はこちらです。案内致しましょう。

手や口は清めましたか?ここは神がいらっしゃる。神聖な場です。
空気が張り詰めているように感じますか?そうですね。ここはもう、神の領域なのですよ。
あちら、見えますか?お堂の奥に青い月があるのが…。
神秘的?なるほど。そう見えるのですね。私はもう長い事ここで神主をしています。
見慣れてしまって、もう、そうは思わなくなりました。
さて。では、貴方の願いを聞かせてください。…ええ、ここで、です。私に話してください。

なるほど。恋愛成就に来たのですね。よくあるお話です。
ですが、ただの恋愛ではないのでしょう。ここへ来られたと云うことは。
もっと深く、そして複雑な事情がありますね?
私が言い当てて差し上げましょう。

貴方が愛してやまないその方は、もう他の誰かのつがい、なのでは?
…その顔は、当たりなのですね。俗に言う不倫や浮気の類に、貴方は足を踏み入れてしまった。
この神社は、真っ当な人間は来ることが出来ません。
貴方は、歪んでしまった側の人間と云うことになります。
さて。貴方の願いは叶うか、叶わないか。叶った場合、お相手のつがいに詫びる気持ちはありますか?
貴方よりも長い年月をかけ、築き上げた関係に、貴方は割って入ることになるのです。
その方の悲しみに向き合えますか?償えますか?
貴方の願いは罪そのもの、なのですよ。

しかしここは、夢見神社。普通の神社ではありません。願いを叶えたければ、叶うのです。
さあ、よく考えてくださいね。
貴方は現実の様々な事を犠牲にしても、お相手と一緒になりたいですか?
…なるほど。わかりました。そんなに強い願いなのですね。では、叶えましょう。
さあ、こちらへどうぞ。その鈴を三回、鳴らしてください。
貴方の夢が叶う世界に行けます。貴方の望んだ世界です。

では、行ってらっしゃい。どうかお幸せに。…そして、さようなら。

さあ、月の色が変わる。真っ赤に染まる。
貴方はもう現実の世界には帰れない。
永遠に夢の世界で生きることになる…って、お伝えしましたっけ?
まあいいです。しかし、参拝客が増え続けている、この現象はどうしたものか。
それほどに現実は、心を歪めてしまうような世界になってしまったのか…。
自由もよい事ですが、守るべき所は守って生きて頂かないと。
全く、毎日毎日、忙しくてかないません。

ルール違反を罰する場所は、そんなに繁盛してもらっては困りますね。
静かで穏やかな時間は、もう訪れないのでしょうか。
…さて、そろそろ門を閉めましょう。

ここは夢見神社。現実では叶わない夢が叶う場所。
おや?貴方も何か願いがあるのですね?…さあ、どうぞお話しください。
その願い、叶えて差し上げましょう。

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