第1話

文字数 1,897文字

「白い光、なんだあれは?」
ひげを生やした筋肉質の男がいる。俺に何かを話しているようだ。
「聞こえねェよッ!」

ジリリー―ン
ジリー――ン

「向日葵、向日葵~起きてっ!!」
母の怒鳴り声とともに俺は起床した。
なんだ夢か。
朝7時半。学校に行く時間だ。食パンを口に、ママチャリを全力で。

「おいおい、青空~遅刻だぞォォ」
「うっせーわ」
「おいこらァ、先生に向かってなんだその態度は!!!」
「へへッ」
(下駄箱から教室までダッシュすればぎりぎりセーフだっつーの!)
ガラ―――ン!!!

「セーフッ!今日も青空向日葵様の遅刻すれすれの登校におめーら、ビビッときただろ!!」
「馬鹿野郎!!涌井くんのように、もっと余裕を持って登校しなさいッ」
名簿帳で思い切りたたかれる。
「ぎゃははは、ぎゃははは」
教室は笑いの渦だ。

これが俺の高校生活。

昼休みはいつものように、屋上で。
向日葵の周囲にはたくさん人が集まる。今日は男が5人、女が4人。
「なあなあ、学校っておかしいと思わねーか?なんで俺みたいにおもしれ―奴が評価されねーんだ??俺ァさ、そりゃバカだけど、毎日誰かの笑顔をつくれるような人間になりてェんだ!!!立派だろ?」
「向日葵、そりゃあ、立派だけどさ。教養ってもんが大事なんじゃないのかなあ?」
「え、あ、教養??」
「馬鹿ね、教養って言葉も知らないの?本当に教養がないんだから!!!」
「ぎゃははは、ぎゃははは」

少年・向日葵の周囲は笑顔で満ち溢れている。
静かで質素な教室も彼が来れば自然と活気が生まれる。

「気に食わない。」
学校ナンバー1の秀才・涌井は向日葵とは対照的に1人、教室の隅で昼休みを読書に捧げる。
”本は友達”これは彼を象徴する言葉。
世に生まれてから16年間、読書を欠いた日はなかった。
文才・神童・アリストテレスの生まれ変わり…数々の異名で呼ばれた彼は学生から、そして先生からも一目置かれる存在であった。

「じゃあ、青空君、この男は何を息子に求めたのでしょうか?答えてみて」
「はいッ!笑顔です!笑顔があればどんな困難だって乗り越えられるから!!!」
「ブブー、違います~、全然脈絡に沿ってないねェ。他に答えてくれる人いますか~?」
「はい」
「じゃあ、涌井くん、答えをどうぞ!」
「”憧れ”です。この『魅惑の花園』って話、読んだことあります。物語の主人公である男は大したことない人間なんですけど、自分を偉大な人物のように息子に語り、最後には『お前は俺に憧れろ!!男は憧れの背中を追いかけて成長していくもんだ!!!』という言葉を残して話は終わります。故に答えは”憧れ”です。」
「流石、涌井くん。正解です。」
涌井は誇らしげに胸をたたき、蔑んだような眼差しで向日葵を見た。
「こんな問題も分からないお前はバカなんだ、教養がない奴は嫌いだ」と今にでも言い出すかのように涌井はその冷徹な視線を向日葵に向けたのである。

キーンコーンカーンコーン

放課後の合図だ。
夕焼けを背に部活動に励む者もいれば、まっすぐ家に帰る者もいる。

「ねぇ、向日葵は部活やらないの?昔から足速かったじゃない!?園芸なんか辞めて、運動部に入ったら?先生に良い評価もらえるかもよ?」
「なッ、うっせーなぁ、浅田ァ。好きで園芸やってるんだ。植物はすげえんだぞ、皆を笑顔にしてくれるんだ!!」
「また、その話~?はいはい、もう聞き飽きたわ」
「ムムッ、そういう浅田は部活入らねーのか?」
「えっ、あたしは入らないわよ、家のことで忙しいし、、、、、」
「お父ちゃん、体調良くねぇのか」
「うん、ちょっとね……」
「まあ、俺になんかできることあったら、言ってくれ!なんたって俺たちゃあ生まれた時から幼馴染だァ!!!お前の笑顔は俺が守る!!!そうだろ?浅田!!」
「うん!いつもありがとうね、向日葵!」
浅田の頬は赤かった。
「そういやさ、涌井ってなんなんだ?」
「涌井くんのこと?頭良くていつも本読んでるイメージしかないなあ、どうしたの?」
「今日俺さ、あいつに鬼のような形相で睨まれたんだ、おっかなかったぜぇ」
「あはは、そうなの?向日葵も意外とビビりね~」
「浅田ァ、おまえええええ!!!」
「あっ、待って向日葵」
通りの古本屋で涌井を見つけた浅田は言った。
「涌井じゃん…本大好きなんだな~」
「そうね~、向日葵も少しは見習ったら?教養もつくわよ?」
「あいつのことなんて見習わねーよ、あと俺の知らない言葉を使うなー!」
「まったくもう、昼に説明したばかりなのに… えっ、向日葵見てっ!!」
「ああ、見た。おい、浅田行くぞっ!!!」
「うんっ!!」

彼らが見たのは読んでいた本と手元の本をリュックに入れ、古本屋から逃走した涌井であった。


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