内燃機関

文字数 1,264文字

最初はさ、少し冷たいなって思うくらいだったんだ。それに周りの皆も使ってた。だからオレも使うようになった。それは発熱器と呼ばれていた。そいつを頭に付けると暖かくなるんだ。昔はもっと大きくてすごく目立ったらしい。でも技術が進歩して今ではかなり小さくなった。頭に付けても誰も気に留めないくらいだ。話によればもうほとんどの人が発熱器をずっと付けて生活してるみたい。付けてないのはじいちゃんばあちゃんだけだ。オレはかなり遅い部類だろう。そんなオレもようやく使い始めた。確かに暖かい。今までも別にそんなに冷たくなかったけど、でもやっぱりこれを付けると暖かい。はっきり分かる。さすがに皆が使ってるものだけあるな。始めの頃は時々付けるのを忘れることもあった。でも今じゃ付けてないと冷たくて仕方ない。祖とだけじゃなくて家でもずっと付けるようになった。果ては付けたまま寝るようになった。

その頃からかな。だんだん違和感を持つようになった。というよりも変化を感じるようになった。発熱器の強度を上げるようになったからだ。ケチな性格だから一番低い設定にしてたのに、最近はずっと高い設定にしている。オレは少し前まで確かに発熱器無しでも普通に過ごしていたはずだ。それがいつの間にかずっと付けっぱなし。しかも強度もどんどん上がってる。少しだけ不安になった。変わってしまったのではないかという不安。依存症。オレは発熱器を外してみることにした。でも駄目だった。冷たい。冷たくて冷たくてどうしようもない。たまらずにまた発熱器を付ける。そしたら暖かくなった。でも愕然とした。発熱器を外せなくなっていることに気付いた。どうしてだ?昔はこんな物はいらなかった。発熱器無しでも暖かかった。あれ?それはどうしてだっけ?なんでオレは冷たくなかった?なんでオレは暖かかった?分からない。でもこれだけは言える。昔のオレには発熱器は不要だった。でも今のオレには必要だ。

退化。

オレは退化した。だってそうだろ?今までいらなかったものが必要になった。退化と言わずに何と言う。オレは戻ろうとした。発熱器を外して暮らそうとした。でも駄目だ。冷たい。冷たい。冷たくて耐えられない。どうしてだ?オレの暖かさはどこへ消えた?オレの内燃機関はどうした?止まっちまったのか?燃料が無い?どこへ消えた?そもそも何だよ。暖かさっていうのは。内燃機関とはなんだ。燃料とはなんだ。分からないことばかり。でも昔は分からずにやってたんだ。昔のオレは何も分からずに何も考えずに、でもやってたんだ。思い出そうなんて無駄なことだ。オレはどうせ何も考えてなんかいなかった。

じゃあどうすればいいか?
作り出すしかない。
考え出すしかない。
ちょっとやそっとじゃ出来ないだろう。
けど戻りたいならやるしかない。

これだけは事実だ。
内燃機関はある。
だからまずは燃料を探せ。
そして点火しろ。
いきなり勢いよく燃えはしない。
ゆっくりと育てていくしかない。


オレはもう発熱器に頼りたくはない。
自分の熱だ。
自分の熱が欲しい。
オレの熱。
オレ自身の熱。

終わり









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