第3話

文字数 828文字

店員にゆすられて起きた。寝てたらしい、しかも閉店まで。もう、周りに客はいなかった。周りの店員はイスやテーブルをずらし締め作業を始めている。足早に会計を済ませる。経費で落とすために領収書が欲しかったが周りの目が痛くレシートだけ貰うことにした。650円。やはり、安い。二人分にしては。ブレンド一杯分の短いレシート。眠っていた時の記憶だと誰かとこの店に入っていた。夢にしては現実味があり、現実にしては夢見がちな内容であった。
しかし、このレシートが意味することは僕がただボーっとして喫茶店に入り眠って風変わりな夢を見たということなのだろう。何をしてるんだろう、それに困ったな。記事の締め切りに間に合わせないと。
「そうだ」
バックの中からボイスレコーダーを出して再生する。
レコーダーから流れてくる程よい音楽と人の声が漂う喫茶店の会話は街がうねる音にかき消された。これからまた別の店に入る手間も煩わしいのでその場にしゃがんでイヤホンで聞く。1時間10分7秒もある音声を再生する。僕がごにぉごにょと話している。相手の声はない。途中から静かになり最後まで流すと店員に起こされ情けない声でレコーダーの電源を落とす声が聞こえた。ため息をつく。彼女はいなかった。壁に寄りかかりしゃがんでうなだれる。彼女はいなくなってしまった。ついさっきまで僕の前にいたはずの彼女を証明するものはない。

しばらく、頭を下げて膝の間に挟み地面を眺める。ハイビームが眩しい。石の匂いがする。
「あの~大丈夫ですか・・・?」
曇りない声がする方に顔を向けると女の子が立っていた。僕を覗き込むようにかがんでいた。猫のようなつ上がった目に白い肌をしていた。石の匂いが彼女の匂いに淘汰されごつごつした地面に向けられてた視線は柔らかそうな胸元に注がれた。甘美な声、顔、匂い、身体。

今日、僕の目の目にいたのは概念の彼女なのかもしれない。その概念が偶像が姿を持って今、目の前にいるのだ。僕はそう思うことにし彼女に返事をした
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