3.

文字数 518文字

 そんな時、やっとあの、何十年も前に落として失くしたものが見つかった。
 落としたのはあんなに昔なのに、どうやって私のところに戻ってきたのか、どんなに考えても分からない。
 夫や娘たちにそれを見せると、「本当にそれがそうなの?」、「そんなつまらないものが、ずっと探していたものだったの?」と、全員が同じことを言うので、私はちょっとむくれた。
 ある日、夫がこっそり私に囁いた。
「君が探していた“あれ”だけど、実はずっと俺が隠していたんだ」
 絶対に嘘だ。だって、落としたのは夫と出会う前だから。
 娘たちもそれぞれ同じことを言ってきた。そんなことはあり得ないというのに。
「ごめんね、お母さん。あれを取ってずっと持っていたのは私なの」
「お母さんのバッグからあれが落ちたのを、私、見てたの。すぐ拾ったんだけど、お母さんには渡さなかったの」
 公園で知らない男の子が私の側にやって来て、同じことを言った。
「おばさんの大事なものを今まで隠してたのはオレなんだ。なんかずっと言えなくて…。ごめんなさい」
 もう何が何だか分からないけど、それは今、自分の手の中にある。だから、誰かが黙って持っていって、ずっと隠していたんだとしても、そんなことはもうどうでもいい。
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