目玉焼き

文字数 2,178文字

ある日、目玉焼きを焼こうと卵を割った。

そうしたら、中から変なものが出てきた。

「おめでとうございます!100年にひとりの幸運の持ち主にあなたは選ばれました!」

そんな事より、俺は目玉焼きが食べたい。
早くしないと、トーストが冷めてしまう。

俺は無視して、新しい卵を割った。
じゅっと音を立てて、フライパンに乗った。

良かった。
普通の卵だ。

「あの~聞いていますか?」

「今、それどころじゃないから。」

ここからが肝心だ。
俺は半熟の目玉焼きしか食べない。

しかも裏だけ焼くやつじゃない。
水をちょっと入れて上側も蒸らして作るやつだ。

俺は塩コショウを振りかけ、少量の水を入れ蓋をする。
水は入れすぎると目玉焼きがべちゃべちゃになるし、少なすぎれば上側がちゃんと蒸れないし、堅焼きになってしまう。

様子を見ながら、ここぞと言うときに、火を止める。

バターを塗っておいたトーストにさっとのせる。

「よし!……で、あんた何?何だって?」

俺はやっとそれに話しかけた。

「………………。」

そいつは何故か黙っている。

その目は俺の目玉焼きを見ている。
トーストを左右に動かすと、猫の子みたいに顔がそれを追いかけた。

「………食べたいのか?」

こくりと頷く。

卵から出てきたのに、目玉焼きを食いたいとは、なんてやつだ。

共食いも面白いかと差し出すと、ちゅるんと目玉焼きだけ食べやがった!

「何でトーストを残す!!今が両方の食べ時だったのに!!」

「ご、ごめんなさい。お皿かと思いました…。」

あぁ、なるほど。

「とりあえずトーストも食べて。」

俺はまた、パンから焼き始める。
ここぞと言うタイミングで食べたいのだ。
トーストも目玉焼きも、妥協したくない。

フライパンのコンディションを整えて、油をしく。

「あの~話を~。」

「今、忙しい。」

フライパンに卵を落とす。

「あっ!!」

「どうしました?」

「見てこれ。」

今度の卵は黄身が2つあった。
今日はいいことがありそうだ。

俺は上機嫌になって、塩コショウをふる。
水を入れて蓋をする。

「あ!トースト!!」

しまった!忘れていた!

「なぁ!ちょっとトーストにバター縫って!!」

「え?私がですか!?」

「他に誰がいるんだよ!!」

なんだかわからないそれは、四苦八苦しながらバターを塗ってくれた。

「持ってきてっ!!」

ワンルームに俺の声が響く。

慌ててそいつが持ってきた熱々のトーストに半熟の目玉焼きを乗せる。

「やった!完璧!!ありがとう!!」

かぶりついたトーストは、とても美味しくできた。

黄身も半熟ので、噛むとトロリと溢れてくる。
ずずっと吸い上げるのはご愛嬌だ。

黄身が2つだから2倍旨い。

変なのは、少し困ったように笑いながら、俺が食べ終わるのを待っていた。

「で?何だって?」

俺はコーヒーを啜りながら聞いた。

そいつは今度は俺のマグカップを見つめている。

「飲みたいのか?」

こくりと頷く。

俺は仕方なく、電気ケトルでお湯を沸かし、コーヒーをいれてやる。

「熱っ!苦っ!!」

なんだかコントみたいだな。

俺は砂糖と牛乳を出してやる。
量がわからなそうだったので、甘めにした。

「あ、美味しいです。」

「それは良かった。」

ほくほくとコーヒーを飲んでいるので、俺は洗濯機を回しに立ち上がった。

それをそいつは不思議そうに眺めていた。

「何をしてるんですか?」

「洗濯。」

ピッとスイッチを押せば、後はお任せだ。

「それで何だって?」

「はい、あなたが100年にひとりの幸運の持ち主に選ばれたんです。」

「え?何それ、いらない。帰って。」

「は?え?」

「新手の宗教だろ?いらないよ、金ないし。」

「宗教ではありません!」

「どうせお約束で壺とか売り付けるんだろ?」

「違います!あなたの願いを、ひとつだけ叶えると言うやつです!」

「へ~~~。」

「信じてませんね?」

「そりゃ、卵から出てきたしね?」

「玄関から入ってくるよりは、それっぽくないですか?」

そう言われて見ればそうかもしれない。

「卵から出てきたのに、目玉焼き食ったよな?共食い?」

「卵はたまたまの出口だっただけで、私は卵ではありません!」

「卵だけにたまたまなんだ。」

「違います。」

変なのは俺の寒いギャグに若干、引いていた。

「何で目玉焼き食べたんだ?」

「それは……とても美味しそうだったので……。」

「腹、減ってたの?」

「まあ、100年に一度しか出てきませんから……。」

なんだかわからないやつも、なんだか大変なんだな。

「なら、昼飯も食うか?」




俺はフライパンに卵を落とす。
卵を2つ落とす。

ハンバーグは冷凍だが、ご愛嬌だ。

チーンとレンジが鳴る。

「鳴りましたよ?どうすれば?」

「テーブルに持ってって!熱いから落とすなよ!」

塩コショウをして、水を少し入れる。
入れすぎても、入れなさすぎても駄目だ。

蓋をして、ちょうどいいタイミングで蓋をあける。

「熱いフライパン通るから、退いて!」

目玉焼きをハンバーグに乗せる。
2つのお皿に1つずつ乗せる。

ひとまず流しにフライパンを突っ込んで、ご飯をよそった。

熱々のうちに食べなければもったいない。

目玉焼きに箸を入れる。
トロリと黄身が流れ出て、ハンバーグにかかる。

完璧だ。

俺はそれをご飯の上に乗せた。

顔を上げた俺の目に、そいつが目玉焼きをちゅるんと飲み込むのが見えた。

「え?」

「だって、美味しいうちに食べたかったから……。」

うん。
食べ方はひとそれぞれあっていい。

美味しく食べれば、それが一番だ。
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