この道を二人で

文字数 2,371文字

 ちょうど冬の寒い季節に私たちは出会った。私が駅で歩いていた時、「すみません、お食事でもどうですか?」といきなり、見知らぬ男性に話しかけられた。あまりにも唐突だったので「ごめんなさい、今急いでいるので」と断ると「連絡先だけでも交換しませんか?」と勢いよく聞いてきたので、私はその勢いに負けて、連絡先だけ交換した。
 その日の夜、早速メッセージが届いた。簡単な自己紹介と「今度の日曜日ゆっくりお茶でもしませんか?」とまたまた勢いよく誘われたので、私は心の中で「この人は何目的だろう?」と考える余地もなくまた勢いに負けてOKしてしまった。
 日曜日は意外とすぐにやってきた。待ち合わせの場所に着くともうその人はいた。そして私を見つけて駆け寄ってきた。そして
「この前は連絡先交換してくれてありがとう。僕はユウと言います。よろしくお願いします」
と緊張などとは無縁なのではないかと思うくらいの笑顔で挨拶をしてきた。すかさず私も
「こちらこそありがとうございます。私はことと申します。よろしくお願いします」
と返した。すると
「カフェ調べました。今の時間帯なら入れると思う」
と言うとユウさんは私をカフェへと連れて行った。私は心の中で「大丈夫なのかな?」と急に不安になった。
 カフェに着くと日曜日にしては空いている席がちらほらあった。そして「何にする?」とか「決まった?」と聞かれたが、お会計は別会計にして欲しかったので、迷っているフリをして「まだ決まらないので、お先に頼んでください」と言った。「うん、分かった」と言った時のユウさんの笑顔はかわいすぎてドキッとしてしまった。私はカフェモカを頼んでユウさんの待っている席へと向かった。
 ユウさんはまたまたいきなり
「僕とお付き合いしてもらえませんか?」
と切り出した。私は下を向いてしまった。「まだ何も知らないのになんでだろう?」という不信感と共に私には隠しごとがあったので、
「お友達なら……」
と言った。すると
「うん、大丈夫。友達でも全然オーケーだよ」と心地よいテンポで言葉を紡いだ。
 それから二時間二人でずっと話をした。ドリンクを飲む時に無言になるだけで、私たちはほぼノンストップで話し続けた。
 帰る時もわざわざ私の乗る電車のホームまで送ってくれた。そして「楽しかったありがとう。ことさん気をつけて帰ってね」と言いながら手を振りその日は別れた。
 「なんで私なんだろう」「私じゃなくてもいい人見つかるだろうに」と思って、楽しさよりやはり不信感が強く残ってしまった。でもそれを考えなければ間違いなくいい人だったので、好きになってしまいそうで怖かった。

 それから一ヶ月くらいメッセージのやり取りと、日曜日にお茶をする日々が続いた。その時にはもう私はユウさんのことを好きになっていたし、私はユウさんのことを「優くん」と呼び、優くんは私のことを「琴ちゃん」と呼んでいた。そして関係性も友達から恋人へと変わっていた。
 次の日曜日に私は優くんにあることを打ち明けようと覚悟していた。毎日仕事をどうにか頑張れているのも優くんの力が大きかった。ちょうど優くんに声をかけられた頃、会社で部署が変わり慣れない仕事に四苦八苦していた頃だった。毎日優くんが送ってくれるメッセージに私はどれだけ助けられただろう……。日曜日になるのがどんどん楽しみで仕方なくなった。しかし今度の日曜日がくるのはちょっと怖かった。そんなことを考えながらも日曜日はあっという間にやってきた。
 いつものとおりに待ち合わせをして、二人で見つけたお気に入りのカフェへ行き、ドリンクを頼んで席に着くと優くんが
「琴ちゃんなんか今日緊張してる?」
と聞いてきた。「鋭すぎる」と思いながら私はまず心を込めて
「優くんいつもありがとう」
と伝えた。その後間髪入れずに
「実は優くんに言えてないことがある」
と小さく呟いた。優くんは表情を変えることなく
「なあに?」
と優しく聞いてくれた。私はすごく小さな声で
「私多分体の関係もてない……ごめん」
とありったけの勇気をだして伝えた。優くんは少しビックリしながら
「琴ちゃん、別に僕はそういうこと望んでないから。むしろ僕もそんな感じなんだ、すごい偶然だけど……」
 私は声が出なかった。優くんも黙り込んでしまった。二人で下を向いていると、優くんが
「僕もなかなか言えずにごめん」
と口を開いた。私は俯いたままでいることしかできなかった。すると優くんが
「琴ちゃん、顔上げて」
と言うので、ゆっくりと顔を上げると優くんがいつもの笑顔で微笑んでいた。私も優くんにつられて微笑んだ。すると優くんは
「心の繋がりのがすごくない?」
と言うので
「うん」
と答えると
「笑顔がいいな」
と言いながら優くんが変顔をしたので私は大きな声で笑ってしまった。そしてそんな私を見た優くんは
「周りからは理解されないかもしれないけど、僕たちなりの付き合い方とか、お互いのペースでいけばいいんじゃないかな」
と真剣な眼差しで語った。私はまた
「うん」
としか言えなかった。でもそれを言った後、優くんがまだ少し強張った表情をしていたので、今度は私が変顔をしてみせた。
「あははは」
と優くんは大声で笑いだした。続けて
「変顔もかわいいから困る」
とお世辞みたいなことを言った。
 多分カフェにいた他のお客さんたちに迷惑なくらい、私たちは笑い合ってしまった。なので私たちはどちらからともなく「行こうか」とまるで逃げ出すかのようにカフェを後にした。しかしちゃんと「ごちそうさまでした」と言いながら。

 それから私たちはなんだかいつもより心が強く結ばれた感じがした。気がつくと季節は冬から春へと変わっていた。 
「もうすぐ桜の時期だな」
「そうだね」
 そう言いながら私たちは歩きにくい石畳の道を二人のペースでゆっくりと歩きはじめた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み