第1話
文字数 1,618文字
じっちゃんはお日様みたいな人だった。
僕が初めて父さんと母さんの家に来た日、家の前にある畑の真ん中に、じっちゃんはいた。
「よく来た。シュンタ。」
じっちゃんはにっこりと笑って僕に手を振った。僕はこの日のじっちゃんの笑顔を今でも忘れない。
父さんと母さんは、子供をなかなか授からなかった。子供がどうしても欲しかった2人は、里親制度を知り、5歳だった僕を引き取った。
初めて父さんと母さんを見た時は緊張した。これから先、自分にどんな毎日が訪れるのか。それはとても未知の世界で、僕は怖かった。僕の周りの大人たちは、みんな僕とはいつも違う世界にいた。でもあの日、じっちゃんがにっこりと僕の名前を呼んでくれて、僕は感じた。ここはきっと温かい場所に違いないって。
それからの毎日、家のすぐ裏に住んでいたじっちゃんとはいつも一緒に過ごした。畑仕事を手伝ったり、夏は花火や虫とりをしたり、自転車の乗り方も、星の観察だって、じっちゃんからたくさん教わった。
僕が10歳になる時、母さんが赤ちゃんを産んだ。僕の弟になる子だ。僕は怖かった。母さんが見たこともない程の幸せな表情で、赤ん坊に触れていた。誰もが幸せだった。疑いのない幸福とはこういうものだと思い知らせれた。
みんなが幸せそうに見える時、僕の気持ちは複雑だった。血の繋がりがないのは僕だけだったから。僕は、僕がここに来た意味を、突然見失った。父さんも母さんも、今まで通りと言えば今まで通りだった。それでも、気付かないはずはなかった。我が子とは、血の繋がりのある子供とは、それだけで全てだと言わんばかりの存在だった。弟の存在が、僕に教えてくれた。
僕は弟が出来てから、少しずつ、家族にはなりえない自分の存在を理解し始めた。幸せな者達の中で、僕はずっと孤独を感じていた。周りが幸せである程、僕の世界は真っ暗だった。
じっちゃんが亡くなったのは、僕が25歳になった時だった。じっちゃんが患っていた心臓の病気のせいだった。じっちゃんが亡くなった知らせを聞いて、もう家を出て一人暮らしをしていた僕も、始発の新幹線で地元に帰った。父や母の兄弟たちもあちこちから帰ってきた。僕が今まで会ったことがない親戚がたくさん集まった。僕は誰のこともよく知らなかったけど、みんな、僕を知っていた。
「シュンタ君、辛かったろうね。じっちゃんはシュンタは初孫だって、いつも話してくれていたのよ。」
僕の叔母ちゃんという人が言った。
「シュンタ、小さな頃何度か会ったのを覚えているかい?家を出て立派に社会人やってるんだって、じっちゃんから聞いていたよ。」
僕の叔父ちゃんという人が言った。
じっちゃんという存在を無くしたみんなは、悲しみに包まれていた。じっちゃんの柩を閉める前に、僕は冷たくて硬くなったじっちゃんの手を握った。小さな時、ずっと離さなかったこの手を、もう握るのは最後だ。
人はこうして、毎日を別れに近づくために生きなきゃいけないとしたら、未来は暗いけれど、でもじっちゃんを見送って強く感じたんだ。じっちゃんとの別れは、間違いなく、残された者たちの絆を強くした。
僕はじっちゃんを失う悲しみを周りのみんなと共有して、初めて家族を感じたんだ。血の繋がりはなくても、確かに、僕は父さんや母さんや、みんなと繋がっている。じっちゃんとのそれぞれの思い出で繋がっている。僕はきっと今までで初めて、ここに僕は居ても良いんだと心から思えた。
これが、じっちゃんが、最後に遺してくれたものなんだ。じっちゃんを失った悲しみを乗り越えるために、僕たちは更なる絆を作っていくんだ。家族になっていくんだ。
もうすぐ僕は幼馴染と結婚する。もし僕に子供ができたら、その子もここの家の人達とは血の繋がりはない。でも、家族になれるよ。きっと、とても良い家族になれる。今はそう思えるんだ。
ありがとう、じっちゃん。
じっちゃんは、僕のヒーローだよ。
僕が初めて父さんと母さんの家に来た日、家の前にある畑の真ん中に、じっちゃんはいた。
「よく来た。シュンタ。」
じっちゃんはにっこりと笑って僕に手を振った。僕はこの日のじっちゃんの笑顔を今でも忘れない。
父さんと母さんは、子供をなかなか授からなかった。子供がどうしても欲しかった2人は、里親制度を知り、5歳だった僕を引き取った。
初めて父さんと母さんを見た時は緊張した。これから先、自分にどんな毎日が訪れるのか。それはとても未知の世界で、僕は怖かった。僕の周りの大人たちは、みんな僕とはいつも違う世界にいた。でもあの日、じっちゃんがにっこりと僕の名前を呼んでくれて、僕は感じた。ここはきっと温かい場所に違いないって。
それからの毎日、家のすぐ裏に住んでいたじっちゃんとはいつも一緒に過ごした。畑仕事を手伝ったり、夏は花火や虫とりをしたり、自転車の乗り方も、星の観察だって、じっちゃんからたくさん教わった。
僕が10歳になる時、母さんが赤ちゃんを産んだ。僕の弟になる子だ。僕は怖かった。母さんが見たこともない程の幸せな表情で、赤ん坊に触れていた。誰もが幸せだった。疑いのない幸福とはこういうものだと思い知らせれた。
みんなが幸せそうに見える時、僕の気持ちは複雑だった。血の繋がりがないのは僕だけだったから。僕は、僕がここに来た意味を、突然見失った。父さんも母さんも、今まで通りと言えば今まで通りだった。それでも、気付かないはずはなかった。我が子とは、血の繋がりのある子供とは、それだけで全てだと言わんばかりの存在だった。弟の存在が、僕に教えてくれた。
僕は弟が出来てから、少しずつ、家族にはなりえない自分の存在を理解し始めた。幸せな者達の中で、僕はずっと孤独を感じていた。周りが幸せである程、僕の世界は真っ暗だった。
じっちゃんが亡くなったのは、僕が25歳になった時だった。じっちゃんが患っていた心臓の病気のせいだった。じっちゃんが亡くなった知らせを聞いて、もう家を出て一人暮らしをしていた僕も、始発の新幹線で地元に帰った。父や母の兄弟たちもあちこちから帰ってきた。僕が今まで会ったことがない親戚がたくさん集まった。僕は誰のこともよく知らなかったけど、みんな、僕を知っていた。
「シュンタ君、辛かったろうね。じっちゃんはシュンタは初孫だって、いつも話してくれていたのよ。」
僕の叔母ちゃんという人が言った。
「シュンタ、小さな頃何度か会ったのを覚えているかい?家を出て立派に社会人やってるんだって、じっちゃんから聞いていたよ。」
僕の叔父ちゃんという人が言った。
じっちゃんという存在を無くしたみんなは、悲しみに包まれていた。じっちゃんの柩を閉める前に、僕は冷たくて硬くなったじっちゃんの手を握った。小さな時、ずっと離さなかったこの手を、もう握るのは最後だ。
人はこうして、毎日を別れに近づくために生きなきゃいけないとしたら、未来は暗いけれど、でもじっちゃんを見送って強く感じたんだ。じっちゃんとの別れは、間違いなく、残された者たちの絆を強くした。
僕はじっちゃんを失う悲しみを周りのみんなと共有して、初めて家族を感じたんだ。血の繋がりはなくても、確かに、僕は父さんや母さんや、みんなと繋がっている。じっちゃんとのそれぞれの思い出で繋がっている。僕はきっと今までで初めて、ここに僕は居ても良いんだと心から思えた。
これが、じっちゃんが、最後に遺してくれたものなんだ。じっちゃんを失った悲しみを乗り越えるために、僕たちは更なる絆を作っていくんだ。家族になっていくんだ。
もうすぐ僕は幼馴染と結婚する。もし僕に子供ができたら、その子もここの家の人達とは血の繋がりはない。でも、家族になれるよ。きっと、とても良い家族になれる。今はそう思えるんだ。
ありがとう、じっちゃん。
じっちゃんは、僕のヒーローだよ。
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