第1話

文字数 1,942文字

「おめでとうございます、今日の1位は、さそり座のあなたです。
 今日はなにをしても大勝利間違いなしの1日です。自信を持って過ごしちゃいましょう。」

 いつもの朝のニュース、いつもの占いだ。毎朝飽きもせずに同じようなことを言っている。
 しし座は何位です、さそり座は何位ですって、毎日よくもそんなに順位が変動するものだ。好調ってのはわりと続くものだし、これから数週間ずっとさそり座を1位にしておくくらいのほうが信憑性があるんじゃないか。

「おめでとう、今日さそり座1位だって。大勝利間違いなしだって、よかったわね。」

 毎朝の日課であるコーヒーの香りを楽しみながら占いに興味なさそうな態度をとっていると、母がわざわざ俺の1位を祝福する。俺もこんな歳だし、占いの結果なんかで一喜一憂する気はさらさらないが、こうやって嬉しそうに伝えられるぶんには、悪い気がしない。

「ハルカさん、おにぎりだけお願いしてもいいかしら?」

 今日の母は張り切っている。なぜなら今日は家族5人、みんなで公園に行ってピクニックをするからだ。二世帯住宅に住んでいる我々は、親子3世代にわたって仲が良い。嫁姑関係も良好なようで、非常に助かっている。

 一家の大黒柱が誰かといったら、本来は一家の稼ぎ柱が名をあげるべきだろう。しかし実際のところ、我が家の大黒柱は初孫様である。一家が円滑に回るためのキーマンとして働いていると言えるだろう。初孫様がいるだけで、公園に行くだけのことが、一家全員にとっての楽しい大イベントになるのだ。初孫様は偉大なり。

 母が大張り切りで弁当を作るのに負けじと、父もご機嫌で準備をしている。普段は家でゴロゴロしがちだが、俺もピクニックは意外と嫌いじゃない。最近はかなり涼しくなってきて過ごしやすい気候なので尚更だ。公園までは徒歩5分。家族みんなで家を出た。


 出発から3分ほど経った頃、ふと俺は下腹部の違和感に気づく。

 うんこしたい。

 家を出る前にしておけばよかったが、家を出る前にはしたいと思わなかったのだ、仕方がない。最近急に寒くなってきたせいだろうか、突発的にやってきた波に驚きつつも、とりあえずは少し我慢してみることにした。

 しかし数秒後、それは我慢なんかができる類のものではないと気づかされる。あまりにも大きなエネルギー反応、制御できません。
 それに気づいたが最後、そこからは早かった。俺の肛門はあっという間に力を失う。


 パワーのある開門。


 力を失ってからについて、詳しく説明するのは野暮というものだ。ただ、結構大きな音がしたので、家族全員、俺が漏らしたことに気付いてしまったようだ。

「あぁ。」

 母が全てを察したように言う。どんな顔をしているか、直視することなんてできなかった。

「気持ち悪いけど、公園着くまで我慢我慢。」

 母は歩みを早めた。

 公園に着いた、母が俺の下半身を露出させる。さすがに外で下半身を露出すると寒い、こんな寒さは人生で味わったことがない。
 尻に冷たい風がぴゅーと吹く。匂いも鼻まで届く。臭い、勘弁してくれ。俺の胸は不安な気持ちで満たされる。

 不安になったらお腹が空いた。いや、もしかしたらお腹が空いたから不安になったのかもしれない。しかし今はそんな因果関係はどうでもいい。さっきから散々過ぎる。
 いったい俺が何をしたっていうんだ。うんこを漏らしたんだ。涙がこぼれる。最悪だ。俺はストレスのあまりに泣き叫んだ。

「ああああぁ!!!!!あああああぁああああぁああ!!!!!!!!!!!!」

「あ、お腹も空いたのね、はい、哺乳瓶。」

 母は非常に察しが良い、俺は哺乳瓶にかぶりつく。外で飲むミルクは美味い。母も父も祖母も祖父も、俺を嬉しそうに見つめている。

「俺たちもお弁当食べようか。」

 父であるハルカが言う。どうぞ勝手に食ってくれ。

 お腹が満たされると、一気に不安もなくなってきた。みんなも俺に最高の笑顔を向けてくれているし、最高の気分になってくる。ああ、家族は最高だ。今日も良い日だな。

 機嫌が良くなってきたので、少し家族サービスでもしてやることにしよう。

「パパ、ママ!」
「はーいパパでちゅよー、今日もお前は可愛いなあ。」
「ママだよーん、今日もミルク飲めて偉いねえ。」

「ばぁば、じぃじ!」

「ばぁばだよー、ばぁばのことも呼んでくれてありがとねぇ。」
「じぃじもありがとうだよ、初孫は本当に可愛くて仕方ないねぇ。うんちすらも可愛い。」


 はい、一丁上がり。

 どうよ俺様の、初孫様の大黒柱っぷり。
 
 何をしても大勝利ってのはやはり間違いじゃなかったな。俺の勝利は明日も明後日も揺るがないだろう。

 朝の占いさん、これからは毎日、さそり座を1位にしておくんだな。

 さそり座以外の嫉妬の嵐、大事件勃発だ。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み