第1話

文字数 1,113文字

最初から同居していたのではないみたいだけど、私が産まれる前からか後からだったのか、聞いた事があったかもしれないけどすっかり忘れてしまった。
けど、私が物心ついた頃にはもう、おばあちゃんの存在は認識していて、共働きの両親より一緒にいた時間が多かった子供の頃は、当然のようにかなりのおばあちゃんっ子で、遊びに行くのも、お風呂に入るのも、寝るのもおばあちゃんと一緒だった、という記憶が今でも私の中にしっかり残っている。

この記憶は、本当だったら忘れていたかもしれないけど、おばあちゃんが残していた日記を読んだから蘇ったのかもしれない。

おばあちゃんが寝る前にいつもノートに何かを書いていた記憶。
「何書いてるの?」「秘密だよ」「思い出だよ」「ふーん」
そんな会話をした事もうっすらとだけどなんとなく思い出す。

子供ながらに「秘密」という言葉に反応して、覗き込んで見た事もあったと思うけど、子供の好奇心を満たすような物でもなく、文字だけでなんだか面白くも無いし、難しくてよく分からないから、すぐに興味を無くして「秘密」はつまらない物だと、おばちゃんのノートを気にしなくなったと思う。

わざわざつまらない「秘密」を見なくても、私には絵本が沢山あった。

字が読めなくても、読んで貰う事が好きだった。

小学生になると字も読めるようになって、読んで貰うより、自分で読む事の方が楽しくなって、おばあちゃんと寝なくても1人でも寝る事もできるようになっていったし、お風呂も1人が良くなった。

私の成長と共に生活も変化する。
自分の日常が進んでいくスピードについて行くのに精一杯で、追い付いていけない時もあったりする。

一緒に居る時間は減ったけど、おばあちゃんは いつも私の変化に喜んだり心配したり、ずっと変わらずにいてくれる。
当たり前にいつも居る家族。
大事な家族なのに、両親の事もおばあちゃんの事もなぜが凄くムカついて、イライラして、自分でもどうしたらいいのか分からないモヤモヤしている頃の夏、おばあちゃんが帰らぬ人になった。

すぐには受け入れられない事で、悲しいと思う事さえ出来ないような、なんの嘘なんだろうと、嘘つくなんて酷いとさえ思ってムカついて、誰も居ないおばあちゃんの部屋に行って怒鳴ったりもした。

帰ってきたら許さない、家には絶対に入れないと思っていた。


いつまでおばあちゃんが居なくなった事に怒っていたのか、それは思い出せない。


三回忌の今日、久しぶりにおばあちゃんの部屋に入ってみた。

何も変わらない部屋。

いつも寝る前にノートに何か書いていた、おばあちゃんの背中が脳裏に浮かぶ。

机の引き出しを開けてノートをめくる。

今まで泣くことが出来なかった分の涙が一斉に出てきた。
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