文字数 773文字

君も、あのトンネルの事を聞きたいのかい? いいだろう。話してあげるよ。

あのトンネルを発見した時は、本当にビックリしたね。
「まさかこんな所にあるなんて」って感じだったから。
僕は、すぐさま、そのトンネルの中に入っていったよ。

え。怖くなかったかって? いやいや、怖いなんて事ないさ。
それよりも、興味深かったのはトンネルを歩いた時の事だよ。
前へ向かって歩いてるのに、後ろに進んでる感じがするんだ。

あの奇妙な感覚は、ぜひ君にも味わってほしいね。
不思議だけど、気持ちの悪い感覚ではなかったね。
そして、そのうちにトンネルの出口が見えてくる。

春だった。トンネルを抜けた先には春の景色が広がっていたんだ。
信じられるかい。今は夏なのに、春の景色が広がっていたんだよ。
それも、よく見てみると普通の景色じゃないんだよ。どんなって?

まあ、慌てないで聞いてくれよ。そうだな、表現がいまいち思いつかないけれど。
「過去に向かっている」という感じだったね。何を言っているかわからないって?
確かに僕も最初はわからなかった。それぐらいに奇妙な景色、光景だったからね。

地面に落ちていた桜の花びら達が浮かび上がって、桜の木の枝についていくんだ。
そして、満開の桜の木になった、と思った次の瞬間には枯れ木になってしまった。
最初は何が起こったのかわからなかった。でも、今度は紅葉の木になったんだよ。

そこで僕はわかった。時間が逆に進んでいるんだ、と。過去に向かっているんだ、と。
周りをあらためて見ると、他にも、時間が巻き戻りしていく景色が散らばっていたよ。
どんなのがあったかって? うーん。それを君に説明してしまうのは面白くないなあ。

え。見てみたいって? ……どうしても?
……仕方ない。特別に君だけ連れて行ってあげるよ。
準備ができたようだね。それでは、僕が見つけた秘密のトンネルへ。

さあ、行こう!
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