第1話
文字数 1,998文字
轟音と共に一瞬にして頭上にまで海水が襲って来た。けれどどうすればいいかはわかっている。手足をばたつかせておけばいい。3回目になれば自分でも意外と冷静でいられた。 でも「どうして」という気持ちは変わらない。
このまま「助けられては落とされる」を強制的に繰り返されるの?
ホテルの部屋から一歩外に出た途端に足元はグラグラと崩れて海に放り込まれる。
あ、誰かの手に触れた。
「大丈夫ですか?」さっきと同じ人たち。
喉に海水が絡みついて声にならない。気持ちだけ先走って「たすけて」と叫びたいのにせき込むことしかできない。
暖かいバスタオルに包まれると、これで帰ることができると錯覚してしまう。
「おかえりなさいませ」ホテルのエントランスでドアを開けてくれた。
この人はわたしの置かれた状況など知らないのだろうか。彼の顔色やまわりの様子を素早く見た。相変わらず笑顔で「お部屋の準備はできていますよ」などと言っている。
日差しの強い海辺とは違って涼しい風が気持ちよかった。
リムジンの運転手はフロントガラスを磨き、ブーゲンビリアを背に記念撮影しているカップルもいた。
裸足で体に張りついたワンピース姿のわたしだけ異様に見えるだろう。
タオルはすっかり水分を含んでしまった。シャワーを使えるならもう中に入るより仕方がないのだろうか。
レセプショニストもわたしがただ泳ぎに出ていただけといった対応だった。
部屋の階に降り立ちエレベーターのドアが閉まると泣くまいと思っても孤独感を止めることができなかった。
わたしはどうやってここに来たのだろう。さっきと同じ部屋。持っていたバッグもそのままだ。
シャワーを浴びローブのままベッドに横になると全身に疲労感が襲ってきていつの間にか眠ってしまっていた。
はっと起き上がり「何時?」と部屋を見回した。スマホはもう使い物にはならない。
窓からの様子だと正午くらいだろうか。
ドアを開けたならまた海に逆戻りだろう。
同じことを繰り返さないためには何か別のことを試してみるべきだ。
テーブルのタブレットを手に取る。起動できるのだろうか。
すぐにルームサービスのメニューが表われた。
水ー5
オレンジジュースー10
コーヒーー10 (M)
Mは金額・・・ではない。
右上にデジタルが表示された。わかった。単位は時間だ。
5分を過ぎた頃水のボタンを恐る恐るタッチしてみた。
1分と経たないうちに部屋のドアがノックされた。
ペットボトルを手にした自分が信じられなかった。
「やったわ!」思っていた以上に喉が渇いていた。
画面を見つめ時間が経つのが待ち遠しい。また水を持ってこさせた。
これと思うメニューの時間まで待っていればそれを手に入れることができるのだから。
体に水分が満たされひと息つくと今度は酷く空腹感を覚えた。
時間は30分近く経って画面のメニューがまた増えていた。見ている間にも追加されていった。おかげでずっとまともな食事を取ることができた。
それもただ単にマフィンやオムレツではない。きっとこのホテルには一流のキッチンスタッフがいるようだ。
豪華なブランチの後は・・・魅力的なアイテムが並んでいた。
食事が終われば化粧品。洋服。何日か経てばセミオーダーもできる。
「夢みたい」クローゼットの半分が埋まった頃ふと思い立った。
「このホテルにはいつまでいられるのかしら」
欲しいものはたくさんあるけれど、ホテル側から何も言ってこないのだろうか。 「でも来たくてここに来たわけじゃないしね」
部屋にはフロントにつながる電話もなく、タブレットにも連絡先などは表示されていなかった。あると言えば返品・交換のボタンくらいだ。
けれど今は大満足だ。ルームスタッフの対応も丁寧だった。
「まだいいわよね、ディナーが終わってからでも」ソファでまたタブレットを起動させた。
「わぉ、これすてき」ジュエリーが追加されていた。
数分おきに豪華なジュエリーが追加されていき、「もうこうなったら宝石泥棒ね」
ひとつのボタンをタッチした。
「あっ」
イヤリングとピアスの選択を間違えたことに気がついた。
数分後ダイヤのイヤリングが届けられた。綺麗にラッピングされていたがどうしても中を見たくて開けてしまった。
「やっぱりピアスのほうが納得いくわよね」
わたしは躊躇することなくタブレットの返品・交換のボタンをタッチした。
「・・・」
いくらか待ってみたが誰かがやってくる気配はなかった。
もう一度同じボタンをタッチした。
「・・・」
右手を引っ張られた。
「ほら、青に変わったよ」
目の前にタクヤがいた。周りには行き交う人の波。遠くで音響信号のメロディが聞こえた。
「どうしてここに?」
「えっ?ランチ行くんだろ」
どうしてどうしてどうして!わたしは何度も心の中で叫んでいた。
このまま「助けられては落とされる」を強制的に繰り返されるの?
ホテルの部屋から一歩外に出た途端に足元はグラグラと崩れて海に放り込まれる。
あ、誰かの手に触れた。
「大丈夫ですか?」さっきと同じ人たち。
喉に海水が絡みついて声にならない。気持ちだけ先走って「たすけて」と叫びたいのにせき込むことしかできない。
暖かいバスタオルに包まれると、これで帰ることができると錯覚してしまう。
「おかえりなさいませ」ホテルのエントランスでドアを開けてくれた。
この人はわたしの置かれた状況など知らないのだろうか。彼の顔色やまわりの様子を素早く見た。相変わらず笑顔で「お部屋の準備はできていますよ」などと言っている。
日差しの強い海辺とは違って涼しい風が気持ちよかった。
リムジンの運転手はフロントガラスを磨き、ブーゲンビリアを背に記念撮影しているカップルもいた。
裸足で体に張りついたワンピース姿のわたしだけ異様に見えるだろう。
タオルはすっかり水分を含んでしまった。シャワーを使えるならもう中に入るより仕方がないのだろうか。
レセプショニストもわたしがただ泳ぎに出ていただけといった対応だった。
部屋の階に降り立ちエレベーターのドアが閉まると泣くまいと思っても孤独感を止めることができなかった。
わたしはどうやってここに来たのだろう。さっきと同じ部屋。持っていたバッグもそのままだ。
シャワーを浴びローブのままベッドに横になると全身に疲労感が襲ってきていつの間にか眠ってしまっていた。
はっと起き上がり「何時?」と部屋を見回した。スマホはもう使い物にはならない。
窓からの様子だと正午くらいだろうか。
ドアを開けたならまた海に逆戻りだろう。
同じことを繰り返さないためには何か別のことを試してみるべきだ。
テーブルのタブレットを手に取る。起動できるのだろうか。
すぐにルームサービスのメニューが表われた。
水ー5
オレンジジュースー10
コーヒーー10 (M)
Mは金額・・・ではない。
右上にデジタルが表示された。わかった。単位は時間だ。
5分を過ぎた頃水のボタンを恐る恐るタッチしてみた。
1分と経たないうちに部屋のドアがノックされた。
ペットボトルを手にした自分が信じられなかった。
「やったわ!」思っていた以上に喉が渇いていた。
画面を見つめ時間が経つのが待ち遠しい。また水を持ってこさせた。
これと思うメニューの時間まで待っていればそれを手に入れることができるのだから。
体に水分が満たされひと息つくと今度は酷く空腹感を覚えた。
時間は30分近く経って画面のメニューがまた増えていた。見ている間にも追加されていった。おかげでずっとまともな食事を取ることができた。
それもただ単にマフィンやオムレツではない。きっとこのホテルには一流のキッチンスタッフがいるようだ。
豪華なブランチの後は・・・魅力的なアイテムが並んでいた。
食事が終われば化粧品。洋服。何日か経てばセミオーダーもできる。
「夢みたい」クローゼットの半分が埋まった頃ふと思い立った。
「このホテルにはいつまでいられるのかしら」
欲しいものはたくさんあるけれど、ホテル側から何も言ってこないのだろうか。 「でも来たくてここに来たわけじゃないしね」
部屋にはフロントにつながる電話もなく、タブレットにも連絡先などは表示されていなかった。あると言えば返品・交換のボタンくらいだ。
けれど今は大満足だ。ルームスタッフの対応も丁寧だった。
「まだいいわよね、ディナーが終わってからでも」ソファでまたタブレットを起動させた。
「わぉ、これすてき」ジュエリーが追加されていた。
数分おきに豪華なジュエリーが追加されていき、「もうこうなったら宝石泥棒ね」
ひとつのボタンをタッチした。
「あっ」
イヤリングとピアスの選択を間違えたことに気がついた。
数分後ダイヤのイヤリングが届けられた。綺麗にラッピングされていたがどうしても中を見たくて開けてしまった。
「やっぱりピアスのほうが納得いくわよね」
わたしは躊躇することなくタブレットの返品・交換のボタンをタッチした。
「・・・」
いくらか待ってみたが誰かがやってくる気配はなかった。
もう一度同じボタンをタッチした。
「・・・」
右手を引っ張られた。
「ほら、青に変わったよ」
目の前にタクヤがいた。周りには行き交う人の波。遠くで音響信号のメロディが聞こえた。
「どうしてここに?」
「えっ?ランチ行くんだろ」
どうしてどうしてどうして!わたしは何度も心の中で叫んでいた。