子供

文字数 492文字

毎年、水が温み始めるとこの池は黒く染まる。
大量の卵が一斉に孵化し、艶のある生き物が生臭い臭いを撒き散らしながら、蠢き続ける。
悪食で共食いする事もあるそれを子供は網で掬い、散々もて遊び、池の縁に撒き、放置する。
そして無数の黒い染みが残る。
毎年、繰り返される異様で残酷な光景。
それでも池の色は時期が過ぎるまで黒いままだ。

ある日、黄色い帽子を被り、青いスモックを着た小さな子が一人で池の縁に屈んでいた。
池に網を入れ黒い生き物を掬うと、まだ動いている物の上に手にした石を振り下ろす。
一匹ずつ丁寧に嫌な音を響かせ、眺め、池に返す。
何が面白いのか、その行動を繰り返す。
俯いた顔は帽子に遮られ表情は見えない。
ただ、淡々と繰り返す。

どれくらい経ったのか。
生臭い臭いと嫌な響きが、耳に慣れ始めた頃。
ゴツッ。
そんな音がした。
動きを止めた子供は、自分が作った赤の混じった黒い物を指でかき回す。
そして、嬉しそうに言った。
「あった」
小さな指が白い小石のような物をつまみ上げる。
「ぼく、あった」
子供はそれを残して、そのまま消えた。
池の中に、小さな靴が浮いていた。
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