第1章 真夜中のひかり
文字数 1,560文字
『タ、タスケテ・・・』
『ワタシヲ タスケテ クダサイ・・・』
「ギャー! 命だけは取らないで下さい!」
「お願いです、どうか成仏して下さい!」
「怖いよぉ、た、助けてくれー!」
・・・真夜中の悪夢に、僕はうなされて目を覚ました。
「またか・・・」
数日前から、毎晩のように同じ夢を見て、真夜中に目を覚ましている。
夢枕に女性が立ち、『タスケテ・・・』と僕に訴えかけてくるのだ。
僕は田舎暮らしをしている普通のおじさんだ。ヒーローのような必殺技なんて持っているわけがないし、悪さすらできないほどの小心者である。そんな人間が幽霊に助けを求められても、何もできないし、ただ困るだけなのだ。
正直なところ、「幽霊も人を選んで助けを求めてほしい」と思っているが、そんなことを幽霊に言っても仕方ないことは理解している。
それにしても、冷静に考えると、ちょっと不思議な幽霊なのだ。
普通、女性の幽霊と言えば、「怖い顔」「痩せている」「足がない」というイメージだと思うが、僕の夢枕に立つ幽霊は「ちょっと可愛い」「小太り」「足がある」。さらに言えば、年齢は20代前半だろう。もちろん知り合いにそんな女性はいない。
そんなこともあって、「あれは本当に幽霊なのか?」と疑ってしまう。しかし、現実の人間が枕元に立っているわけもないので、結局「幽霊」ということに落ち着くのだ。
そして次の日の夜、再びあの幽霊が現れた。
『タ、タスケテ・・・』
『ワタシヲ タスケテ クダサイ・・・』
毎晩のことなので、少し慣れてきた。
僕は勇気を振り絞って、幽霊に聞いてみた。
「なんで僕のところに来て助けを求めるの?」
すると、その幽霊は一言だけ・・・
『ワタシノナマエ ハ ヨコタヒカリ』
といって消えていったところで、僕は目を覚ました。
「ヨコタヒカリ?」
僕は眠気を振り払って、頭をフル回転させて考えた。
「『ヨコタヒカリ』なんて女性、僕の知り合いにいたかなぁ・・・?」
「そんな名前の人、いないはずだけど・・・」
「人の名前を覚えるのは苦手だから、忘れてしまったのかなぁ?」
いろいろと考えて、いろんな記憶をたどっているうちに、ある小さな手掛かりに気がついた。
そして、ついにその名前を思い出した。
「ヨコタヒカリ、わかった! ひぃちゃんだ!!」
「横田ひかり」こと「ひぃちゃん」は僕が趣味で書いた小説の登場人物だ。
ひぃちゃんは、僕の処女作でもある「あの日の後悔」という掌編小説に登場する女性で、会社でセクハラやパワハラを受け続け、ストレスで過食症になり、更には怪しい開運セミナーからお金をだまし取られて、最後にはメンタルが崩壊する・・・という不幸な女の子だった。
「どうして、ひぃちゃんは僕の枕元に立ったのだろう?」
「ひぃちゃんは『タスケテ』って言ってたけど・・・」
僕はハッとした!
「もしかして、ひぃちゃんは自分が不幸なままで小説が終わったことを悲しんでいるんじゃないか?」
「だとしたら、あの小説の続きを書いて、ひぃちゃんを幸せにすればいいのかもしれない」
「そういうことなら、ひぃちゃんを助けることができるのは、あの小説を書いた僕しかいない!」
僕はすぐに小説の続きを書き始めた。
しかし、作業は思っていた以上に難航した。そもそも、一話完結のつもりだった物語に、続きをつけることは難しいことだったし、オジサンの僕が、若い女性のひぃちゃんの性格や心情を考慮することは、とても難しく感じた。
それでも試行錯誤を繰り返し、なんとか無事に書き終えることができた。
小説を書いている間、ひぃちゃんは現れなかったが、小説を書き終えた夜に再び現れた。
「ひぃちゃん、長い間、辛い思いをさせてしまってごめんね」
と僕が言うと・・・
『アリガトウ・・・』
・・・と言って、ひぃちゃんは消えていった。
それ以降、僕の夢枕に幽霊が立つことはなくなった。
『ワタシヲ タスケテ クダサイ・・・』
「ギャー! 命だけは取らないで下さい!」
「お願いです、どうか成仏して下さい!」
「怖いよぉ、た、助けてくれー!」
・・・真夜中の悪夢に、僕はうなされて目を覚ました。
「またか・・・」
数日前から、毎晩のように同じ夢を見て、真夜中に目を覚ましている。
夢枕に女性が立ち、『タスケテ・・・』と僕に訴えかけてくるのだ。
僕は田舎暮らしをしている普通のおじさんだ。ヒーローのような必殺技なんて持っているわけがないし、悪さすらできないほどの小心者である。そんな人間が幽霊に助けを求められても、何もできないし、ただ困るだけなのだ。
正直なところ、「幽霊も人を選んで助けを求めてほしい」と思っているが、そんなことを幽霊に言っても仕方ないことは理解している。
それにしても、冷静に考えると、ちょっと不思議な幽霊なのだ。
普通、女性の幽霊と言えば、「怖い顔」「痩せている」「足がない」というイメージだと思うが、僕の夢枕に立つ幽霊は「ちょっと可愛い」「小太り」「足がある」。さらに言えば、年齢は20代前半だろう。もちろん知り合いにそんな女性はいない。
そんなこともあって、「あれは本当に幽霊なのか?」と疑ってしまう。しかし、現実の人間が枕元に立っているわけもないので、結局「幽霊」ということに落ち着くのだ。
そして次の日の夜、再びあの幽霊が現れた。
『タ、タスケテ・・・』
『ワタシヲ タスケテ クダサイ・・・』
毎晩のことなので、少し慣れてきた。
僕は勇気を振り絞って、幽霊に聞いてみた。
「なんで僕のところに来て助けを求めるの?」
すると、その幽霊は一言だけ・・・
『ワタシノナマエ ハ ヨコタヒカリ』
といって消えていったところで、僕は目を覚ました。
「ヨコタヒカリ?」
僕は眠気を振り払って、頭をフル回転させて考えた。
「『ヨコタヒカリ』なんて女性、僕の知り合いにいたかなぁ・・・?」
「そんな名前の人、いないはずだけど・・・」
「人の名前を覚えるのは苦手だから、忘れてしまったのかなぁ?」
いろいろと考えて、いろんな記憶をたどっているうちに、ある小さな手掛かりに気がついた。
そして、ついにその名前を思い出した。
「ヨコタヒカリ、わかった! ひぃちゃんだ!!」
「横田ひかり」こと「ひぃちゃん」は僕が趣味で書いた小説の登場人物だ。
ひぃちゃんは、僕の処女作でもある「あの日の後悔」という掌編小説に登場する女性で、会社でセクハラやパワハラを受け続け、ストレスで過食症になり、更には怪しい開運セミナーからお金をだまし取られて、最後にはメンタルが崩壊する・・・という不幸な女の子だった。
「どうして、ひぃちゃんは僕の枕元に立ったのだろう?」
「ひぃちゃんは『タスケテ』って言ってたけど・・・」
僕はハッとした!
「もしかして、ひぃちゃんは自分が不幸なままで小説が終わったことを悲しんでいるんじゃないか?」
「だとしたら、あの小説の続きを書いて、ひぃちゃんを幸せにすればいいのかもしれない」
「そういうことなら、ひぃちゃんを助けることができるのは、あの小説を書いた僕しかいない!」
僕はすぐに小説の続きを書き始めた。
しかし、作業は思っていた以上に難航した。そもそも、一話完結のつもりだった物語に、続きをつけることは難しいことだったし、オジサンの僕が、若い女性のひぃちゃんの性格や心情を考慮することは、とても難しく感じた。
それでも試行錯誤を繰り返し、なんとか無事に書き終えることができた。
小説を書いている間、ひぃちゃんは現れなかったが、小説を書き終えた夜に再び現れた。
「ひぃちゃん、長い間、辛い思いをさせてしまってごめんね」
と僕が言うと・・・
『アリガトウ・・・』
・・・と言って、ひぃちゃんは消えていった。
それ以降、僕の夢枕に幽霊が立つことはなくなった。