ぼくのラムネ

文字数 1,347文字

この瓶いっぱいにラムネを集めることがずっと夢だった。きっとそれを叶えるために自分は生きているのだと思うほどに。

初めていっぱいにラムネが溜まった時、本当に嬉しかった。瓶だけでなく心も満たされた気がして、幸せでいっぱいだった。
しかし、躓いて転んでしまい必死に集めた中身はほとんどこぼれてしまった。手を差し伸べてくれる人も、ラムネを拾い集めてくれる人もいなかった。落としたラムネは車に轢かれて粉々になってしまった。

辛かったけど、その分またラムネを集めようと思った。きっと努力した分報われるって、みんなそう言う。だから必死にまた集めなおした。
そしてまたラムネを集めきれた時、最初に溜められた時よりも幸せが増えていた気がした。努力したら報われるって本当なんだなって、そう思えた。
そんな時、小さい子供に声をかけられた。
「ねえ、そのラムネ少し分けてくれない?」
少し躊躇った。だってこれはぼくが必死に集めたラムネで……。
でも、この幸せは誰かに分けるべきなのかもしれない、きっとあげた分何か返ってくる。人に分けた幸せはいつか自分に返ってくるって、そう思ってラムネを分けることにした。

その子にあげたラムネは、幸せはもう返ってくることはなかった。
人に幸せを分けても何もいいことなんてない、その事がわかったから、もう人に幸せを分けるのはやめようと決めた

だんだんラムネを集めることも困難になってきた。それでも瓶いっぱいにラムネを溜めたくて必死に集めた。どんな手を使ってでも。
またラムネが溜まった。これで幸せだ。正直幸せがなんなのか、だんだん分からなくなっていた。幸せだと思い込むことで自分の行動を正当化していた。

しかし、ラムネを見ず知らずの人に奪われてしまった。そしてそのままラムネを捨てられてしまった。瓶ごと。その人は「こんなの汚いから捨てなさい!こんなもの集めて幸せだなんて…可哀想に…。」と言って去っていった。

何が「可哀想」なんだろう?どこが「汚い」んだろう?何が…ぼくの「幸せ」なんだろう?

瓶にはヒビが入ったまま、もう戻ることは無かった。

それでもぼくはラムネを集めた。あつめないといけないんだから。集めるために生きてるんだから。この瓶にラムネが溜められないとぼくが生きている価値はないんだから───。

どれだけ苦しくても、ひび割れた瓶の隙間からラムネがこぼれ落ちても、もうどこにも幸せなんてなくても、ぼくはラムネを集め続けるしか無かった。

そして集まった、いっぱいのラムネ。ああ、やっと集まった。生きる意味はここにある。これが、幸せ。

ラムネの入った瓶を持っていると、何も知らない誰かに「そんなの、美味しくないよ?」「もっと美味しいものがあるからこんなの要らないでしょ」と言われ便ごと叩き割られてしまった。

ぼくの人生全てが否定されたような気がした。
美味しくない?そんなの誰が決めた?ぼくの幸せはぼくの幸せなのに。誰かにとって汚らわしくてもぼくにとっては綺麗で、大切なものなのに。ぼくが今までしてきたことは何だったの?ぼくの幸せは、ぼくの生きる意味は───。

粉々になった瓶にはもう何も入らない。元には戻らない。ラムネももうどこにもない。手に入ってもきっと嬉しくない。ぼくの幸せは何も知らない誰かによって壊されてしまった。
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