青空に

「内田修」
　
　ない。
　
「篠田康二」
　
　ない。
　棚の隙間から出てきた渡せなかった元カレへの手紙を見つけて、昔好きだった人は今何してるんだろうと思って名前を検索している。
　
「吉田恵介」
　
　ない。消火器詐欺で捕まったって聞いたんだけど。出てこない。
　
「谷圭一郎」
　
　あった！
　小学校の時同じ塾に通ってた男の子。頭がよかったことを覚えていて、途中で関西に引っ越したんだよな、確か。
　ホームページあるじゃん。もしかして有名人？確認するために開いてみる。本人の写真が載っているが、二十年ぐらい前なので見たところで同じ人かわからない。画面をスクロールして、経歴を確認する。関西の有名な中高を卒業と書いてある。確かそこに受かったところまでは誰かから聞いたんだよな。本人かな、やっぱり。考えながら、少しずつ昔の記憶を掘り起こしていく。塾の帰りに一緒に駅前の屋台でたこ焼きを食べたこと、ホームの階段をどっちが早く登れるか競争したこと。小学生ぽいことしてたなぁ。関西に引っ越してから、何回か手紙のやりとりをしたこと。そうだ！名前の「朗」の字を「郎」って書いて送って指摘されたっけ。思い出して、字を確認する。「朗」だ。谷君だ！検索した名前は「郎」で一人で笑ってしまう。
　今は観葉植物を取り扱う会社をやっていること。デザインとか建築とか植物で何個も賞を取っていること。ＨＰを読んでわかった。経歴を読み終わった後、無性に煙草が吸いたくなって、しまっておいた残りを久々に取り出す。しけてないかな。禁煙してもう二年？アメリカンスピリットの緑。ライターは見当たらないから、ガスコンロで火をつけてベランダに向かう。体に悪いからって言われて、禁煙してたかな。久々だ。
　肺に煙をためてふぅと空に向かって吐き出す。青空に一瞬スモークがかかる。
　
「観葉植物部屋に置かない？」
　
　スマホを取り出してメッセージを送信する。読んだら突然どうしたって思われるな。煙草の残火をベランダの側溝に押し当てる。片付けの続きしますか。引っ越しは来週だ。