#02 青の道

文字数 546文字

 ウズベキスタンの古都サマルカンド。
 中央アジアにあるその街は、抜けるような青空とモスクの蒼い色から「青の都」と呼ばれている……、それがネットで得た知識だった。
 でもそんなうんちくはどうでもいい。
 わたしが魅せられたのは、サマルカンドに建つ青い蒼いモスクの写真だった。
 その写真からは外観の全体像は分からない。
 けれど、幾何学的な模様が施された、モスクの澄んだ蒼い壁に惹きつけられたのだ。
 俗っぽくたとえるなら、ソーダ味のアイスキャンディーのような蒼い壁が、路地を形成している。
 現地は決して冷やっこくないんだろうけど、画像越しに伝わって来るのは身を引き締める冷気だった。
 ブルーライトが溢れるディスプレイに目をこらし、自分がその路地を歩いている姿を夢想する。
 なぜか靴を履いていない素足に伝わってくるのは、静かに眠る死者の体温か。
 わたしは死者を起こさぬようにそろりそろりと歩く。
 敬意を払って道を踏みしめる。
 でもこの夢想で残念なのは、感覚は分かるのに、後ろ姿でしか自分を認識できないということだ。
 そんなもどかしい想いとは裏腹に、死者の道を滑りゆく背中は遠ざかり、思わず「待って」と手を伸ばせば、中指がディスプレイにぶつかって――猫背気味な背中が弾けて消えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み