お客様クエスト

文字数 2,000文字

時代というのは進化と淘汰の延々なる積み重ねである。それは、きっとどんな世界でも変わらない。


そう。魔王が君臨し冒険者が戦う世界であっても……。

さて、この度、この街の有識者の皆様に集まってもらったのは他でもありません。

今、まさにこの街を襲わんとしている大いなる危機を如何に乗り切るか、それを話し合うためです。

冒険者の勢いに魔王軍が劣勢に追い込まれている件ですね、神父様。
ええ。
この街は武器の錬成と販売で財をなし、隆盛した街だ。このまま魔王が倒れたら世界は平和。そうなると武器は……。
まぁ、売れんわなぁ。

魔王がおらんのなら、冒険者も要らん。

当然、武器も要らんようになるんは、自明や。

俺ッチは平和を願って、そのために武器を造ってきたつもりだったんだけどなぁ。
皮肉なことです。

平和のための武器。しかし、それに頼りすぎた我等は訪れんとする平和に殺されんとする。

でもなぁ。

平和になっても武器の需要はあるんじゃね?

ないわ。

あっても減っていくやろな。

つまり、我々は武器以外の何かを、新しい生きる道を探さねばならないと、そういうことですね。
そうなのです。
でも、俺ッチは武器しか造れねぇし。
いや。

そんなことはない。

為せばなるのだ。

我等の武器錬成の技術は世界一。それを活かして、包丁などの日用品作成などに転換できるはずだ。

日用品はない。

ありえへん。

なんだとッ!!

何故、そう言い切れる?!
ワシは何十年と武器屋やっとる。それこそジジイの代からや。

お客さんに接する立場から言わしてもらうで。

この街の武器はそりゃ精度が高い。超一流や。

それは僕も知っている。

良いことじゃないか。

何も悪くはない。

値段、ですね。
あっ!!
そうや。

当然、一流は値も張る。

冒険者なら強い武器が欲しいから、そりゃバンバン買うてくれてたけどな。

日用品を買うのは、普通の街人やで。そんな高い日用品をバンバン買うてくれるかい。

むぅ。

で、でもだ。

そうであるなら、精度を落として廉価なモノにすれば……。

ざっけんなッ!!

手ェ抜けってのかッ!!

俺ッチは武器錬成に人生かけたんだ。だからこその超一流だってんだ!!

手の抜き方なんざ、俺ッチは知らねぇんだよッ!!

他の職人衆も気持ちは同じだぜ!!

し、しかしだな。
うっせえ!!

無理なモンは無理だってんだよ!!

困りましたね。
ああ。

どうしたもんか。

ううん。

そうなると、やはり武器を捨てて、何か新しい産業を起こすしか……。

それも簡単にはいかんやろ。

この街は武器に頼って数十年やで。

武器を造ることしか知らん街や。

廉価な日用品作る方が、まだ現実的っちゅうもんやで。

なんなんだ。

さっきから否定ばかりして。

僕はこの街に明るい未来をもたらしたいんだよ。

それを、君は否定ばかりだッ!!

何やとッ!!

オマエがくだらんアイディアばかり出すからやないかッ!!

何をッ!!
まあまあ。

私達は争うために集まった訳ではありません。

嘆くためにでは、なおのことありません。

……………………。
すまん。


まぁ、ワシかて未来は欲しいんや。

けどな……。

考えましょう。

何か、何か良いアイディアがあるはずです。
うぅん。

アイディアかぁ。

皆さん。
どうしました?
私に一つアイディアがあります。
何や?

そのアイディアっちゅうんは?

新規顧客の開拓です。
新規顧客ゥ?

どこのどいつや?

魔王軍は劣勢、でも健在なのでしょう。
そうか。

冒険者は最後の戦いのために武器を必要としているということだな。

そんなわけないやろ。

魔王軍を追い詰めた時点で、冒険者は既に装備を整えとるはずや。

むぅ。
冒険者はね。
?!
どういう意味だ?!
冒険者よりもっと、本当に私達の武器を必要としている者達がいます。

職人衆としても、武器は本当に必要としてる者に使ってもらうのが何よりですよね?

おうよ。

確かに望んで使ってもらえりゃ、そりゃ職人冥利に尽きるってもんだ。

じゃあ、本気で武器を望んでる者に売りつけましょうよ。
ちょっと待てや。

オマエ、まさか……。

ええ。

魔王軍こそ、劣勢を跳ね返すために本気で武器を欲する者達。

連中こそ、強い武器を本気で望む新規顧客ですよ。

なるほどッ!!
なるほどちゃうわッ!!

だいたいどうやって魔王軍に武器を売るんや。

任せろ。

武器流通には人生を賭けてきた。

魔物の跋扈する中、確実に武器を届けるためには綺麗事だけじゃ無理だったからな。

魔王軍にも、それなりのパイプを引いてあるのさ。

ホンマか?!
決まりですね。
待ちなさい。

流石にそれは……。

神父様。

先程な話にもあった通り、綺麗事だけでは街は救えません。

そもそも武器に綺麗も汚いも無いんです。

それはそうですが……。
大丈夫。

魔王軍に武器を売るのは今回限り。

魔王軍が強くなれば、今までと同じように討伐隊の冒険者が武器を欲してくれるようになります。

んじゃ、決まりだな。


武器を得て強力になった魔王軍。


劣勢を跳ね返すための次なる策として、魔王が武器の街の制圧を企てるのは、この少し後の話であった。

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