こわいわ

文字数 813文字

 異変がはじまったのは、祖父が亡くなってしばらく経ったころだった。
 誰もいないはずの応接間から笑い声が聞こえたり、お湯を抜いた後の風呂場で浴槽からザバッと上がるような水音がしたり、夜中に階段を上り下りする足音が聞こえる。
「最近こわいんだけど」
 母に言うと、祖父の霊魂がいたずらしてるのかなと笑った。茶目っ気のある祖父だったらあり得るような気がする。だけど不思議なことに、怪しい音を感じるのは私だけで、母や父は聞いたことがないという。
「じいちゃんだったら怖くないけど、しつこいってツッコミ入れたくなる」
 生前の祖父も、たまに調子に乗り過ぎることがあった。そういう時、私が本気でいらついて文句を言うと、祖父はしょんぼり凹んでしまい、あべこべにこっちが謝らないといけない空気になったものだ。

 しばらく経って、両親は祖父の納骨のため、泊りで出かけていった。
 夜、一人で留守番していると、玄関横の応接間で、また笑い声が聞こえた。
「こんな時にいたずらするなんて悪趣味なんじゃない?」
 いつものことだと思っても、一人きりでいる時に聞くとちょっと怖い。

――フフフ。ウフフフ。

 笑い声は断続的に漏れ聞こえてくる。
 私はだんだん腹が立ってきて、応接間に向かった。
「もうやめて!」
 乱暴にドアを開けて怒鳴った。
 真っ暗な室内に廊下の灯りが差し込み、ソファのところに白っぽい何かが見えた。
 裸足の足、のような……
「いやっ」
 私は手で口元を覆った。
 それは子供のように小さな白い足で、ソファに腰かけてぶらぶら宙に浮いた状態のようだった。
 動けないでいると、ソレはおもむろに分厚い絨毯に降り立った。

――ウフフ。

 笑い声がすぐそばから聞こえる。
 足はヒタヒタと歩いてこちらに向かって来る。

「違う……おじいちゃんじゃ、ない……!」

 私は首を振って後退ろうとしたが、体はピクリとも動かなかった。
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