第2話 私立オセロニア学園

文字数 2,400文字

 寝たふりをしていた。いざとなったら脱出するつもりだ。黒服達に担がれ、運び込まれた部屋は研究室のようだった。薄目を開けて確認をした。
 「よし、実験を始めよう」
 (えっ)
 背もたれのあるイスに座らされた。鎖で固定される。私は目を開けた。脱出しようと試みたが、無理だった。

 (な、なんだ。力が抜ける・・・)
 鎖に何か特殊な効果があるみたいだ。もうなすがままだった。力が入らない。
 (く、くそっ!)
 「よし、時空間転送装置稼働だ」
 「ハイ、稼働します。スイッチオン!」
 (なっ!)
 「や、止めろー。う、うわー」
 次の瞬間、別次元へ飛ばされた。

 どれ程、気を失なっていたのだろう。目覚めた時、身体が痛かった。多分、着地に失敗したのだろう。全身打撲。アザと傷だらけの身体。
 (くそ、黒ずくめの組織め!)
 腹立たしかったが、どうすることもできなかった。

 まだまだ未熟者だ。ちょっと強くなったと思っていたのに、この様だ。修業を、やり直さないといけない。悔しくて握りしめた自分の手を見た。
 (うん?)
 人間の手をしていた。オセロニア世界では黒猫の姿だったから、何だか違和感がある。
 (・・・そうだ。オテロは、どうしたんだ?)

 飼い猫の存在を忘れていた。キョロキョロと辺りを見てみた。ホッと安心した。横にチョコンと座っていた。
 「あいたた。いったい、何が起きたんだ」
 オテロは会話のできる黒猫。私の相棒だ。
 「おー、相棒。元気だったか?」
 ブルブルと身体を振っていた。お互い、大変なことに巻き込まれた。いや、正確にいうと私が飼い猫を巻き込んだ。
 (ゴメン、オテロ)

 オテロは無傷だった。無意識でも上手く着地したのだろう。流石、猫。
 「オテロの方こそ、大丈夫そうだな」
 「まー、何とかな・・・」
 後ろ足で器用に頭を掻いている。
 「取りあえず、移動するか?」
 「そうだな、行こうぜ! 相棒」
 「あぁ、行こう!」
 新たな冒険の始まりだ。

 現実は甘くなかった。気ままな旅をすることができなかった。目的地が目の前にあった。何でこんなことが起きるのだろう?
 (しゃべる猫と旅をするなんて、面白いと思ったんだけどね)
 目の前に建物。門には「私立オセロニア学園」と書かれた表札があった。
 (そう言えば・・・)
 黒ずくめの組織から、そんな話を聞いていた。
 (取りあえず、中に入ってみるか?)
 学園の建物を眺めた。特に変わった建物ではない。どこにでもあるコンクリート造りの学校といった感じ。しかし、普通なのは外観だけだった。

 (いや、ちょっと待て・・・)
 このままなら不審者で通報されないか? 辺りに学園に通う学生は見当たらなかった。時間的には授業中。教室の中にいるのだろう。誰か一人くらい気づいてくれないだろうか?
 (困ったな・・・)

 門で立ち尽くしていた。すると猛烈なスピードでやってくる筋肉隆々の男。ジャージ姿が、やけに似合う。おそらく体育教師だろう。
 (私を不審者と判断したのか?)
 取りあえず、彼と話し合わないと・・・。目的地に着いて早々、暴力事件はマズイ。いったい、どうしたものか?

 「マーベラース、この学園へようこそ!」
 (えっ、何?)
 何だろう? 「不審者ではない」と思ってもらえたのだろうか? 恐る恐る聞いてみた。
 「あのー、校長先生に会いたいのですが・・・」
 「・・・あなたでしたか。一人の男がやって来ると連絡を受けています。さぁ、こちらです。案内します」
 いや、ちょっと待って。まだ名前を名乗ってないのだが・・・。
 (この学園での生活に不安を感じてしまうな)

 「こちらが校長室です。それでは私はこれにて、マーベラス」
 また、どこかに行ってしまった。お礼を言う時間も、注意も出来なかった。
 (先生、廊下は走る所ではありませんよ)

 学園内にある、三階の一番奥の部屋。そこが校長室だった。
 校長室の扉をコンコンコンとノックした。
 「誰だにゃ」
 (あれ? この声は・・・)
 「失礼します」
 扉を開けて、部屋に入った。やはり、想像通り。そこには、いつもの王様がいた。
 「よく来てくれましたにゃ、オテロ先生」
 (? ミスターXって王様のことなのか?)
 「我輩が私立オセロニア学園校長ケット・シーにゃ」
 (うん? 何か夢でもみているのかな?)
 頬をパシンと叩いてみた。痛かった。夢では無さそうだ。猫妖精が校長なの? みんな、それでいいのか?
 (パラレルワールドだから、誰でもいいのか?)

 そのキーワードがピタリと当てはまる。この世界はオセロニア世界であり、別世界でもあるということだ。いくつも分岐点のあるパラレルワールドの一つということ。
 私の行動次第では、次のパラレルワールドが生まれてしまうかもしれない。
 (参ったな、完全にお手上げだ。大人しくしておこう)

 「・・・校長先生。私の名前は『太陽』と言います。『オテロ』は肩に乗っている、この黒猫の名前ですよ」
 オテロは暇そうに肩に乗っていた。
 「・・・そ、そうだったかにゃ。にゃはは。間違いは誰にもあるにゃ。それでは太陽先生、よろしく頼みますにゃ」
 (えっ、先生?)
 私は、よく分からないまま、校長先生と握手をした。この世界では教師をするみたいだ。・・・分からないことばかり。
 「ところで私は、これからどうしたらいいのでしょうか?」
 「そうですにゃー、太陽先生。・・・まずは職員室に案内しますにゃ」
 (他の先生が分かるのか・・・)

 猫妖精の集団ではないよね。あんな体育教師がいたから、いろいろな個性を持った教師陣だろう。新米教師として、やっていけるだろうか? 誰か仲良くしてくれるといいな。
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