第2話

文字数 456文字

 僕たちは駅前のバスターミナルに向かっていた。冬の冷たく乾燥した風が吹いていて、彼女はマフラーの中に顔を埋めていた。彼女は体を自分に半ば預けて、僕は彼女の肩に腕を回して歩いている。辺りは閑散としていた。帰宅ラッシュの時刻は過ぎていた。
 バスはまだ来ない。僕たちはベンチに腰を下ろした。
「バス、遅いね」
 彼女は小さくつぶやくように言った。息が白くなって漂った。
「あと五分くらいじゃない。タクシーはあんなにあるのに」
 タクシーの列が長く連なって駐車して待ちくたびれているのが見える。ようやく客を乗せた先頭のタクシーが目の前を通り過ぎて行った。
「今週は休みいつ?」
 彼女が僕を覗き込んだ。
「水曜だよ」
 僕は素っ気なく言った。
「ふーん」
「なに?」
「なんでもない」
「学校でしょ?」
「そうだよ」
「ふーん。じゃ会えないね。今週は」
「じゃ、別れよっか」
「意味わかんねぇよ」
「うそ」
「おまえ、平気でうそつくよな。前はちがったよな。うそなんてつかなかったよな」
「は? 冗談だって。こんなことで怒らないでよ」
「俺、踊るわ。なんとなく」
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