悪女

文字数 951文字

 私は結婚して二年足らずの夫と離婚した。
 やらない男など、おしまいにしてよかったから。何にこだわって一緒にいたのかわからないほどの存在の耐えられない軽い人が夫だとは知らなかった。加瀬君とのセックスがあまりにも刺激的で今も思い出すだけで、すぐに会いたくなってしまうほどだ。
 しかし、残念なことが一つだけある。
 加瀬智弘とは数回会ったけれど、金銭は介在しなかった。
 少し好きになったけれど加瀬君が妻帯者だとは知らなかった。
 それもまた楽しまなくちゃ、スリルを。奥さんなんかこわくはないし、恐れてはいない。それは彼の問題なのだから。

 あの蕎麦屋で怒鳴り倒したロン毛のおじさんに再会した私は話すうちに盛り上がり彼の愛人となり、この先彼の妻が重病なので亡くなったら後妻に入る。全くどこに縁が転がっているのか分かったもんじゃない。すべてはお金のためだ。お金さえあれば何でも手に入ると思う自分がいるから。
 私の残酷さは止まらない、不思議なものだな運命ってと思う。
 その歯車を止められるのは私だけだが止める気など全くないのであと少しの迷いもない。お金がとても大好きになったし、今のうちに楽しいことをいっぱいしないと人生は何のためにあるのかわからない。今まで、狭いゲージの中で生きていた自分を解放してしまえばどんな、欲望も我慢する必要などないことに気が付く。
 ロン毛のおじさんはポテトサラダが大好きで、朝は必ず紅茶を飲む。
 私は微笑みながらもそのあと時々加瀬君と昼の情事を重ねる。
 その時はイチゴのショーツと決めている。子供のような気持ちになれる、乙女心と羞恥心の象徴と私は位置付ける。
 若い方がいいものを持ってる。セックスの楽しさを教えてくれるのは彼で、お金の使い方を教えてくれるのはおじさんだった。
 でも本当にどんな人が大金をもっているかなんて見た目ではわからないものだ。今度は十年前の紅茶を入れてみることにする。早く倒れてくれないかなと思いながら今日もジャガイモの芽が付いたままのポテトサラダを食べさせて、古い紅茶を入れて朝食を作るのだ。
 私にはどんなことがこの先待っているのかは知らないし、知りたくもない。
 楽しいことだけが大好きなのだから。
 さよなら、つまらないおどおどしていた私。
             了
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