第1話 怪談の達人? ザフキエル
文字数 2,167文字
世界最大の図書館に、その男はいた。
名前をザフキエルという。「天軍にその人あり」と言わしめる守護天使。
その彼が、ここにいるのには訳があった。
子供に聞かせるホラーの話を調べるためだ。
― 前日の何気ない日常的な会話からだった。
「ザフキエル様、次の話をしてよ!」
せがむ子供の天使達。戦場では悪魔を一刀両断に斬り捨てるザフキエルだが、子供達の・・・。特に笑顔の前ではタジタジなのだ。
「そうだなぁ、何を話してやろうかな?」
「ねぇー、ザフキエル様。ホラーの話を聞かせてよ」
無邪気に話す子供の天使達。困った顔のザフキエル。
残念ながら、ホラーの話をするほどのネタを持ち合わせていない。先延ばしをするしか方法がなかった。
「ホラーの話か? それでは一週間、問題を起こさなければな・・・」
「ザフキエル様、約束だよ」
「あぁ、分かった」
「やったー、わーい」
笑顔の天使達は急いで、走って帰っていった。
世界最大の図書館だけあって、簡単に目的の書物がなかなか見つからない。司書に確認をしていた。
「ロレーラさん、怪談の話が書かれている書物はこれだけか?」
机の上には妖怪だの怪談などの書かれた書物が積み上げられていた。
「・・・えぇ、それだけね」
「ふむ、いきなり『怖い話をしてくれ』とせがまれたものの、どうしたらいいのだろう? アドバイスをしてもらえないだろうか?」
「・・・そうねー、こういうのはどうかしら。オチから考えてみるの。そこから逆算して話を作り上げるというのはどうかしら?」
「・・・なるほど、やってみよう」
それから本を読みあさり、ネタとオチを考えるザフキエル。仕事の合間に図書館通い。ブツブツと「ああでもない、こうでもない」と話を考えては、ノートに書き留めていく。それから一週間・・・。ついにお披露目をする時がきた。衣装を着替え、雰囲気作りをした。
その姿はまるで別世界の「稲川○二」さながらだった。
「楽しみだね」
「ねー、ザフキエル様はどんな話をしてくれるのかな?」
「・・・僕は怖いの苦手。・・・帰りたいよ」
「大丈夫だって、怖くなんてないからさー。安心しろよ」
子供達はそれぞれ話をしていた。ガラッと障子が開く。ザフキエル登場。
「待たせたな。それでは始めるか・・・」
怖い雰囲気を醸し出すザフキエル。子供達は静かになった。
「・・・ある夏の夜だった。私は・・・」
ゴクリと唾をのみ込む子供達。真面目に聴いている。
「とある戦場にいた。そこには、ただならぬ妖気が漂っていた・・・」
子供達は皆一ヶ所に集まり、怖さを和らげている様子。その方が怖くないのだろう。
「・・・そこには恐ろしい魔物がいた。ソイツは必ずリーダーを呪うと言われている魔物だった・・・」
障子の隙間から風が入り、ロウソクの灯りが揺れる。
子供達は震える者がいた。恐怖心は連鎖する。普段は、やんちゃな子供も今回ばかりは怖さを隠しきれていない。
「・・・独りでその場に立ち尽くす。茫然とした。気づいてしまったのだ。私はリーダーだった・・・」
子供達に笑顔は消えていた。涙目になっている者もいた。
「・・・その魔物に気づかれないように、ソーッとその場を去ろうとした。後ずさりをした時、その魔物は目の前から消えていた」
お互いに抱きつく子供達。ザフキエルの話は止まらない。
「・・・すると背後から生暖かい息がする。首筋に息がかかった。私は恐怖を覚えた。背筋が凍る・・・」
話は盛り上がる。ザフキエルは自分の話に酔っていた。子供達の涙目を無視した。話を続ける。
「・・・振り向いた。そこにいたのは『翡翠』という魔物!」
突然の大声に完全に子供達は、とうとう泣き出してしまう。ザフキエルは話を続ける。
「・・・ほら、聴こえるだろう? ヒタヒタと足音が・・・」
縁側の板がギシッと音がして、ヒタヒタと足音がする。ロウソクの灯りが障子に猫の姿を写し出す。
「・・・アワワ。あっ、あれ・・・」
一人の子供が指を指す。絶句。振り向いたザフキエルもギョッとした。ガタガタと障子が震える。ザフキエルは子供達を抱きしめた。障子が開く。
「ギャー、ひ、翡翠!」
子供達が次々と失神して、気絶した。
「冷えたスイカを持ってきたよ! 皆、一緒に食べようよ・・・」
私は子供達に喜んでもらえるかと思っていた。わざわざ暑い中、ヴェークロストの畑まで行って、スイカを収穫してきたのだ。
それなのに・・・。目の前には気絶した子供達。
ザフキエルが子供達を横に寝かした。私は子供達に可愛そうなことをした。悪気はなかった。
「すまなかったな。オテロ」
「申し訳ないことをしたのは私の方だよ。子供達に誤ってあげて欲しい」
「あぁ、そうするよ。それと誤解を解いておかないとな。オテロと翡翠は別人だとな・・・」
後のことをザフキエルに任せて、私はトボトボと家路についた。
その後、しばらくして子供達は起きて、スイカを美味しそうに食べて、満足して家に帰ったらしい。
それからしばらくの間、子供達は猫を見ると「翡翠!」と震えたそうだ。
― 完 ―
名前をザフキエルという。「天軍にその人あり」と言わしめる守護天使。
その彼が、ここにいるのには訳があった。
子供に聞かせるホラーの話を調べるためだ。
― 前日の何気ない日常的な会話からだった。
「ザフキエル様、次の話をしてよ!」
せがむ子供の天使達。戦場では悪魔を一刀両断に斬り捨てるザフキエルだが、子供達の・・・。特に笑顔の前ではタジタジなのだ。
「そうだなぁ、何を話してやろうかな?」
「ねぇー、ザフキエル様。ホラーの話を聞かせてよ」
無邪気に話す子供の天使達。困った顔のザフキエル。
残念ながら、ホラーの話をするほどのネタを持ち合わせていない。先延ばしをするしか方法がなかった。
「ホラーの話か? それでは一週間、問題を起こさなければな・・・」
「ザフキエル様、約束だよ」
「あぁ、分かった」
「やったー、わーい」
笑顔の天使達は急いで、走って帰っていった。
世界最大の図書館だけあって、簡単に目的の書物がなかなか見つからない。司書に確認をしていた。
「ロレーラさん、怪談の話が書かれている書物はこれだけか?」
机の上には妖怪だの怪談などの書かれた書物が積み上げられていた。
「・・・えぇ、それだけね」
「ふむ、いきなり『怖い話をしてくれ』とせがまれたものの、どうしたらいいのだろう? アドバイスをしてもらえないだろうか?」
「・・・そうねー、こういうのはどうかしら。オチから考えてみるの。そこから逆算して話を作り上げるというのはどうかしら?」
「・・・なるほど、やってみよう」
それから本を読みあさり、ネタとオチを考えるザフキエル。仕事の合間に図書館通い。ブツブツと「ああでもない、こうでもない」と話を考えては、ノートに書き留めていく。それから一週間・・・。ついにお披露目をする時がきた。衣装を着替え、雰囲気作りをした。
その姿はまるで別世界の「稲川○二」さながらだった。
「楽しみだね」
「ねー、ザフキエル様はどんな話をしてくれるのかな?」
「・・・僕は怖いの苦手。・・・帰りたいよ」
「大丈夫だって、怖くなんてないからさー。安心しろよ」
子供達はそれぞれ話をしていた。ガラッと障子が開く。ザフキエル登場。
「待たせたな。それでは始めるか・・・」
怖い雰囲気を醸し出すザフキエル。子供達は静かになった。
「・・・ある夏の夜だった。私は・・・」
ゴクリと唾をのみ込む子供達。真面目に聴いている。
「とある戦場にいた。そこには、ただならぬ妖気が漂っていた・・・」
子供達は皆一ヶ所に集まり、怖さを和らげている様子。その方が怖くないのだろう。
「・・・そこには恐ろしい魔物がいた。ソイツは必ずリーダーを呪うと言われている魔物だった・・・」
障子の隙間から風が入り、ロウソクの灯りが揺れる。
子供達は震える者がいた。恐怖心は連鎖する。普段は、やんちゃな子供も今回ばかりは怖さを隠しきれていない。
「・・・独りでその場に立ち尽くす。茫然とした。気づいてしまったのだ。私はリーダーだった・・・」
子供達に笑顔は消えていた。涙目になっている者もいた。
「・・・その魔物に気づかれないように、ソーッとその場を去ろうとした。後ずさりをした時、その魔物は目の前から消えていた」
お互いに抱きつく子供達。ザフキエルの話は止まらない。
「・・・すると背後から生暖かい息がする。首筋に息がかかった。私は恐怖を覚えた。背筋が凍る・・・」
話は盛り上がる。ザフキエルは自分の話に酔っていた。子供達の涙目を無視した。話を続ける。
「・・・振り向いた。そこにいたのは『翡翠』という魔物!」
突然の大声に完全に子供達は、とうとう泣き出してしまう。ザフキエルは話を続ける。
「・・・ほら、聴こえるだろう? ヒタヒタと足音が・・・」
縁側の板がギシッと音がして、ヒタヒタと足音がする。ロウソクの灯りが障子に猫の姿を写し出す。
「・・・アワワ。あっ、あれ・・・」
一人の子供が指を指す。絶句。振り向いたザフキエルもギョッとした。ガタガタと障子が震える。ザフキエルは子供達を抱きしめた。障子が開く。
「ギャー、ひ、翡翠!」
子供達が次々と失神して、気絶した。
「冷えたスイカを持ってきたよ! 皆、一緒に食べようよ・・・」
私は子供達に喜んでもらえるかと思っていた。わざわざ暑い中、ヴェークロストの畑まで行って、スイカを収穫してきたのだ。
それなのに・・・。目の前には気絶した子供達。
ザフキエルが子供達を横に寝かした。私は子供達に可愛そうなことをした。悪気はなかった。
「すまなかったな。オテロ」
「申し訳ないことをしたのは私の方だよ。子供達に誤ってあげて欲しい」
「あぁ、そうするよ。それと誤解を解いておかないとな。オテロと翡翠は別人だとな・・・」
後のことをザフキエルに任せて、私はトボトボと家路についた。
その後、しばらくして子供達は起きて、スイカを美味しそうに食べて、満足して家に帰ったらしい。
それからしばらくの間、子供達は猫を見ると「翡翠!」と震えたそうだ。
― 完 ―