もしかしたらあなたの運命の人かも?

文字数 1,398文字

 実際のところ、ハリィとウィリィがいなかったら、僕は森の中で迷ってのたれ死んでいたかもしれない。よく誤解されるけれど、射手は野伏とは違う。野伏は自然の中で生活することを生業にしている連中で、森の中で熟練の野伏に勝てるのは森エルフくらいしかいない。一方、僕のような射手は戦闘訓練としての弓術をマスターした人間で、スキルとしては兵士に近い。森の中のことなど大してわかってない。
 この森は恐ろしく入り組んでいて、並大抵の歩き方で抜けられるものではなかった。おそらく怪力のバルドーや破壊魔法の強いパワワなら力ずくで道を切り開いただろうし、知識のあるジャンゴならうまく道を見つけられるだろう。でも、僕一人ではどうにもならない。
 ハリィはさすが、野生の勘とでもいうのか、僕やミリィでも歩きやすい、いわば獣道を見つけてくれる。ウィリィがそれを確保して僕らに教えてくれるので、僕が小剣で切り開く、という感じだ。こんなことならナタでも持ってくるんだった。
 小一時間も進んだ頃、ハリィとウィリィが戻ってきてミリィに何事か報告した。いや……動物と会話できるわけはないと思うけれど、ミリィは本当に言葉がわかるみたいに、二匹の伝えたいことがわかるみたいだった。
「ダーナ様、この先に人がいるようです」
「人? こんな森の中に?」
「何者でしょう」
「さてね……パン屋さんってわけじゃないだろうね」
 こんな森の中にいるってだけであまりまともな相手とも思えない。余計な遭遇は避けて通りたいのが本音だが、かと言って、今の僕らの戦力では背後を警戒するにも限界がある。後で背後を突かれたりするのは嬉しくない。ハリィとウィリィがいれば不意打ちを受ける可能性は下がるが、それでも完璧とは言えない。接近すべきか、避けるべきか。
「♪こんな時、どうする〜?」
 あ?
 またあの損害保険の広告みたいな映像が僕の目の前に表示されてる。映っているのは女神アージェスだ。画面内を意味もなく歩き回りながら、さも親身そうに語りかけてくる。悪魔かよ。
「見知らぬ相手との遭遇、気になりますよね。敵か味方かシルバー仮面。強敵だったら死んじゃうかも? もしかしたらあなたの運命の人かも? あー迷っちゃう! そんなとき、あなたならどうしますか?」
 はいはい。答えはわかってますよ。
「アーちゃんに課金」
「その通り! 勇者だけに許されたスペシャルスキル『索敵調査くん』、略して『サクサク』!。遭遇する相手の情報をすぐにゲット! これで運命の人もすぐわかっちゃうかも? なーんて、今のは冗談だよ! 今なら美味しい『クロワッサン詰め合わせ』をプレゼント。さて気になるお値段は……」
 価格表が提示される。五百円。
 ここで抗ってもいいことないのはなんとなく理解している。課金を承諾すると、僕の頭の中でピン!と小気味いい音がした。スキルを獲得したらしい。
「やったね! 『索敵調査くん』さえあれば友達百人、サクサクっとできちゃうと思うよ? 楽しんでねー!」
 損害保険の映像は消滅した。
「……ダーナ様?」
 突然黙ってしまった僕の顔をミリィが心配そうに正面から覗き込んでいた。女の子に間近で見られると恥ずかしい。
「あ、いや、ごめん」
「大丈夫ですか? お疲れでは」
「いや、今ちょっとアージェスの広告……いや啓示を受けてた」
「まあ。それでなんと」
「あたらしい能力を授かったからちょっと試してみるよ」
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登場人物紹介

ダーナ射手で詩人。ゲームから派生した異世界イニアに、パーティの仲間と共に召喚された。

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