第1話

文字数 1,156文字

年末で仕事がめちゃくちゃ忙しい。平日は毎日残業。休日は馬鹿みたいに寝て過ごし、友達と遊ぶ暇もなかった。
 そんなに忙しいというのに、忘年会にはキッチリ参加し結構呑んだ。店を出ると外は吹雪。大型の寒波が到来し氷点下の日が続いていた。
 同僚と別れ、私は自宅とは反対方向へ歩き出す。親友の柚希(ゆずき)が近くのアパートに住んでおり、急に会いたくなったのだ。
 ここのところ、あまり連絡を取っていなかった。最後のLINEは柚希の恋愛相談。彼氏と上手く行ってないみたいな?そんな感じ。
「別れた方が良いかもね」という、無責任なアドバイスを私が送信し、会話が終わっている。
 アパートに着くと柚希は留守だった。さっき店で電話した時も出なかった。もしかしたら彼氏とデートかも?
 私はドアの横のメーターボックスを開けた。柚希は、その中の死角となる所にフックを取り付け、アパートの鍵を隠していた。危ないから止めるよう何度か忠告したが、
「何回も鍵を失くしてるから」と、それを止めようとはしなかったのだが、こんな時には都合が良い。
 ボックスの中をまさぐり、私は鍵を探した。でもフックに鍵が掛かってない。よく見ると下に落ちていた。
「あー、やっぱり危ないなあ」
 私は鍵を拾い上げながら思った。
 
 火の気の無い柚希の部屋は、何故か外よりも寒々としていた。まるで家主が何日も帰ってきてないような荒涼とした寒さに、思わず身震いする。
 私はコートも脱がずに急いで炬燵へ潜り込んだ。兎に角、体を暖めたかった。電源を入れると炬燵は直ぐに暖まってきた。体が解凍されていくような感じ。まるで天国だ。炬燵の発明者は神かもしれない。
「少し暖まったら、また柚希に電話してみよう」
 そう思って目を閉じた瞬間に、私は気を失った。疲れとお酒のせいで、一瞬で寝落ちしてしまったのだ。

「ねえ、ねえ」
 誰かに肩を揺らされた。最初は夢かと思った。
「ねえ、ねえ」
 また肩を揺らされ、私は眠りから引き戻された。柚希が帰ってきたのだと分かったが、眠すぎて目が開かない。
「ごめん、柚希。眠らせて」
 私は炬燵の中へ頭まで潜り込んだ。
「ねえ、ねえ」
 また柚希は私を揺らす。こんなにしつこいのは珍しい。余程何かを言いたいのだろう。
「うーん、もう、何よ!?」
 私は諦め、不機嫌に返事をしながら炬燵から顔を出して目を開けた。
「あれ?」 
 だが、そこに柚希はいなかった。先程と同じ寒々とした部屋が、そこに有るだけだった。
「夢?」
 釈然とはしなかったが、そう思うしかなかった。
 私はまた寝ようと思ったが、その前にトイレを済まそうと、起きてユニットバスに向かった。
 ドアを開けると、バスタブに柚希が居た。
 死後一週間だった。
 
 間もなく、柚希の彼氏が、容疑者として捕まった。動機は別れ話の縺れらしい。
 
 おわり
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