チキンレース

文字数 2,198文字

 中学生と言うのは、馬鹿な事をしがちだ。 特に暇な時、野郎どもが集まると、ろくなことはしない。そう言うお話。
 中学の頃、馬鹿な話と言えば、1番印象に残った話、鮮明に憶えている話を1つ。
 
 青春と言うのは、カーッ!と照り付ける、真夏の太陽みたいなもので、暑くて、乾いていて、何もかも不浄の物を焼き尽くす、正に真夏の太陽の様だ。
 ウ~ン、いつになく詩的だな・・・。

 その日は夏休みだった、確か中2だった。
 俺達は暇を持て余し、いつもの山の上の橋の側で駄弁っていた。
 何人いたかな?8人位か。何が切っ掛けだったかは忘れたが、あだ名がシアターと言う奴がほざいた。
 奴の親父さんは街へと、毎日仕事に出るので、週間レンタルでDVDを山程借りてくる。
だから奴の家は、ミニシアターみたいなものだった。良く観たものさ、あっちもね、あはは。
 親父さん隠さないものだから、俺達はつるんでエロを見せてもらい、見付かって怒られたものだ、あはは。
 今思えば、懐かしい思い出だ。
あら?あいつの本名何だっけ?
後で卒業アルバムを見よう。
 話が逸れた。だからついたあだ名が、シアター。奴が言いやがった。

「このメンバーで誰が1番根性があるかな?」 

 ニヤニヤ笑うこいつは、何かを企んでいた。
誰かが言った、どうやって証明する?
こいつも乗りやがった、と思った。
 するとシアターは、

「チキンレースだ!」

と言い放ってドヤ顔をした。皆から、
『フーッ』とため息が漏れた。
 始まったよ、こいつの映画情報からの洗脳。
まったく俺達は不良じゃないって。
しかも中2、車はおろか原チャリすら持たない。どうやって、チキンレースをすると言うのだ、走るのか?
 面倒臭いと思っていると、

「こいつで、あの橋の前まで走る。全力疾走でな。そしてギリギリで止まった奴が、勝ちだ」
 
と、自分の乗っているチャリンコを叩いた。
皆が、えっ!という顔をした。
 何故なら橋は、この間の地震で落っこちたのだ。だから直ぐそこは、崖になっていて、今は別ルートに橋を掛けるので。ここは立入禁止のポールと赤白ツートンの棒が渡してある。
 たったそれだけ。誰も危険だから近寄らないし、車も来ないから、俺達のオープンな秘密基地に成ってる訳だ。

 そこへ走る?崖に向かって?
馬鹿な、地面は埃で砂で滑りやすい。
危ないに決まっている。すると、

「俺が1番だ!」

と自称番長の矢代が言った。
 そして、俺を睨んだ。馬鹿な俺は、

「そうかもな」

と睨み返した。

「よし!決まった。矢代と田辺の二人だ」

とシアターが勝手に決めた。
 何でそうなる?と思ったが。まあ暇だし。
何だかんだと言っても、10メートル位前で止まって、笑い話さと思い。
ニヤニヤ笑いながら、俺と矢代は崖から100メートルほど離れて。二人自転車に股がり並んだ。

 だが、俺の自転車はお袋に無理を言って買ってもらったスポーツ車、スピードが出る。
 尤もブレーキはディスクブレーキ、こいつが良く止まる。まあ、どうと言う事はないさと。
 ヨーイドン!で走り出した。
崖の3メートル位前で、馬鹿共は声援を送っていた。いつの間にか、ポールも外されコーンも片付けられ。何処が道路の切れ目か良く分からなかった。

 これは、あいつらの横辺りでブレーキだと思って、横をチラッと見たら。矢代は本気で踏んでいた。
 クソッと思って俺も踏んだら、意外な所で、キーッ!と矢代はブレーキをかけやがった。
まだ10メートルはあるぜ、と俺もブレーキを握った。

 だが止まらない。
えっ!オイルが抜けている。何てコッタイ!
 俺は何度もブレーキを握ったが、スカスカだ手応えが無い!そうだ前輪にもブレーキが、とさっきから握っているが。グググ〜と嫌な音をたてるが、大してスピードは緩まない。

 しまった、後輪のディスクブレーキが、よく利くもので、殆ど使わないからワイヤーが錆びている!
 だが少しづつだが、スピードが緩む。
 皆は笑い顔から、心配顔になっていった。
俺の自転車は、ゆっくりと崖に前輪をはみ出した所で、ようやく止まった。

 駄目だ!バランスが悪い、落ちる!
俺は自転車から飛び降りた。背中から道路の切れ端に、ダイブした。直ぐにくるりと体を返して、何かを握ろうとしたが、草が滑って落ちた!と思ったら。道路の基礎材の鉄骨があって、それを握った! 
 宙ぶらりんになってしまった。
下を見るとデコボコの段が見えた、そこに足を乗せた。何とか安定した。

「ふーっ助かった」

と言うと。上から皆が手を差し出して、俺を引き上げてくれた。
 そして、座り込む俺に矢代が、

「お前の勝ちだ。まったく良くやるよ。
でも明日からどうやって移動する?自転車壊れたぞ」

えっ?!
俺は崖の下を覗いた。
 20メートルは有るだろうか?下には俺の自転車が大破していた。
 しまった!お袋に殺される。
2か月分の食費位高いんだから、大事に乗らないと殺す、と脅されていたんだ。
俺は血の気が引いた。

 それから皆で安全な道を下って、崖に降りて自転車を回収したが。とても乗れるものではなかった。
 シアターが何とか修理すると持って行ったが。直ぐにシアターの親父さんから家に、電話があり、バレてしまった。
俺はお袋に大目玉を食らった。

 それから1年間、小遣い無しだった。
馬鹿な思い出だ・・・。

 教訓、チキンレースは車両点検をしてからにしましょう。

あはは、さてと、アルバムでも見るかな。

終わり。

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