第1話

文字数 693文字

 あなたと最後に会ったのは、もう何年前かしら。

 今日、久しぶりにあなたの顔を見て、びっくりしたわ。すっかり大人びて、初めは誰だかわからなかったくらい。

 バスケットボールはまだ続けているの?
 肩幅がっちりで、たくましい、いい男になったわね。

 部屋の中はだいぶ片付いたみたいね。
 昨日の夜、お母さんからあなたが家を出て一人暮らしするって聞いて、正直言うと寂しかった。

 月日が経つのは早いものね。

 小さい時は、学校で友達にいじめられたとか言っては、泣いてばかりで、お母さんにもさんざん心配かけたよね。でも、家に帰ってきて私の顔を見ると、急に笑顔になって、ホントわかりやすいんだから。

 お母さんはあなたのことをいつも気にかけていたのよ。
 あなたが、学校から帰ってきて寂しい思いをしないようにって、あなたが喜ぶようにって、私にいつもそう言っていたわ。

 中学生くらいになった頃からね、私のことなんか見向きもしなくなって、私もお母さんも寂しい思いしたのよ。

 まあ、でも、それが成長するってことなのよね。

 あなたが成長するたびに、私はあなたに取り込まれ、一緒に成長し、そして、あなたの母さんによって、何度も作り出され、あなたが嬉しそうな顔をするのを見て、いつも幸せを感じていたのよ。

 今日、お母さんが家を出たあなたに私を持たせてくれたこと本当に嬉しく思っているの。
 あなたも、親元を離れた初日なら、素直になれるでしょ。

 幼い頃に嬉しそうな顔をして、私を頬張った時のように、お母さんの愛情をよく噛み締めて召し上がれ。





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