第1話 〇〇〇も甚だしい

文字数 1,010文字

 僕は窓の外を眺める。
 夕焼けがきれいだ。
 下を見れば下校中の生徒たち。
 友達と帰る者。一人で帰る者。腕を組んで帰るカップル。
 爆発しろ。まったく。
 
 お察しの通り僕には彼女がいない。
 僕は深くため息をつく。
 その時、誰かがぼくに話しかけてきた。

「黄昏れてるとこ悪いけど、ちょっといいかな?」

 そう言った彼女は、僕と同じ文芸部に所属している。
 男が文芸部なんて女々しいって? 失敬な。
 かの有名な文豪、太宰治も夏目漱石も男性じゃないか。

 まあいいや。
 彼女は僕と好きな作家が同じで何度か語り合ったことがある。
 読書にふける姿は人形のように美しく、語る姿は興奮に前のめりになる。そのギャップが可愛らしい。
 笑った顔もすごくきれいで、この娘の笑顔が見られるなら、僕は死んでもいいと思う。

「何かな?」

 僕はあくまで平静を装いながら返事をする。心臓の音が聞こえないか心配だ。

「すごく大事な話なんだけどね……」

 放課後なためか、教室には僕らのほかに誰もいない。
 彼女は心なしか焦っているように見える。顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだろうか。

「こんなの、君だけなんだよ?」

 彼女は真摯に僕のことを見つめてくる。
 僕は今まで彼女の好意に気づかない振りをしていた。だって、いざ僕のほうから告白して「自意識過剰でした」なんてことになったら、とんだピエロじゃないか。だから、彼女から告白してくるのを待っていた。

「他の人はもう……」

 そういえば、僕と彼女以外の部員は全員恋人持ちだったな。ちくしょう。

「ねえ、顔が怖いよ」

 いけないいけない。表情に出ていたようだ。失敗したな。

「他のみんなも言ってるんだ。君しかいないって」

 あいつら……。いいとこもあるじゃないか。見直したよ。今度ジュースでもおごってやろう。

「私、もう我慢できないの!」

 そういう彼女の言葉は少し怒っているようにも思えた。
 その目には涙が浮かんでいた。
 そうか、僕はそこまで彼女を苦しめていたのか……。ダメな奴だな。

「君もわかってるんでしょ?」

 彼女は僕より背が低いため、自然と上目遣いのようなかたちになる。
 ああ、もう可愛いなあ。

「わかっているよ。今までごめんね」
「そう、良かったあ」 

 彼女は笑顔を咲かせた。ああ、彼女を笑顔にさせることができてよかった。
 これからはもっと笑顔にしてみせる。
 僕はそう胸に誓う。
 そして彼女は言葉を紡いだ。













「明日までにちゃんと部費払ってね!」
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