第1話

文字数 1,448文字


 小学生のときより誕生日が楽しみじゃなくなった。まだオジサンって年でもないけど。ただ、ちょっと寝る前に「いつまでバカやれんのかな」とか、「おれも、いつかは死ぬんだよな」とか、そんなこと思うと寝付けなくなったりする。まあ変なやつみたいだから誰にも言わないけど・・・
「おはよう、誕生日おめでとう」
 おれの誕生日を一番に祝ったのは母さんだった。スマホの通知も特に無し。彼女がいないやつはこんなもんだろう。
「ハイ、おはよう。どーも17歳です。」
「今日、夕飯から揚げだから。買い食い注意ね。」
「へーきへーき。今日もおれ部活あるし。」
 いってきますといつも通りの道を使って学校へ向かう。教室に着くとおれの机の上にはプレゼントが置かれていた。どうやらクラスの連中のしわざらしい。自販機の缶ジュースとかコンビニで売ってる駄菓子とかそんなもんだけど、ありがたくカバンにしまってホームルームを受ける。それが終わるといきなり数学の小テストだ。普段と何も変わらない、火曜日の時間割で授業が進む。おれ以外の人にとっては今日はただの平日である。当たり前のことを思い返しては少し不思議な気持ちになった。
 昼休み、友だちと弁当を食べていると
「木澤さあ、今日誕生日なの?」
笹野が話しかけてきた。女子との接点はほぼ無いおれだけど、笹野は同じ中学だったこともあり普通に話せる貴重な存在だ。ものすごい仲がいいわけではないが、クラスの端の方で楽しそうに笑ってる彼女を見るのは好きだ。
「うん、そう。17歳。」
「なんか冬生まれだと思ってたから意外ー!」
 笹野はこれあげるよと言ってブレザーのポケットから飴を出した。サイダー味だった。
初めてもらった女子からのプレゼントを口に入れる。ちょっと誕生日でよかったかも、と思った。
 午後の授業をこなすと放課後になったので、体育館脇の部室へ急いだ。おれの所属する陸上部は上下関係はゆるいけど練習は厳しい。がっつりメニューをこなすとさすがにクタクタになった。
 着替えて荷物をまとめていると同学年のコバ、矢野、ガモにちょっといいか、と呼ばれたので部員のみんなが帰った中、おれ達4人は部室に残った。外がすっかり暗い中で遠くに見える教室の明かりがぽつぽつと明るい。来年の今頃は、おれらもあの明かりの下で受験勉強してるのかと思うと実感が湧かなかった。
「木澤誕生日だろ?俺たちでプレゼント用意したんだ。」
コバはエナジーバー、ガモは握力を鍛えるやつをくれた。クラスの連中とは違うセンスで選ばれたプレゼントだ。嬉しい。そんな二人をよそに、ムードメーカーの矢野が持ってきたのはおれが好きな駄菓子の大袋だった。袋がそのまま駄菓子の特大サイズを模していて、ものすごいインパクトがある。これ、雑貨屋で見て「絶対誰も買わないだろ」ってずっと思ってたやつだ。
「ビックリカツ好きだろ?」
「いや、好きだけどさあ!おれは、今からこれ持って電車乗るんだぞ!?」
なんか分かんないけど矢野のプレゼントはゲラゲラ笑えた。爆笑したおれに3人とも満足そうだった。
 リュックに入りきらないプレゼントは手に持つしかなくて、駅ですれ違う人が振り向きざまにビックリカツのパッケージを確認していくのが恥ずかしかった。それでも口元がニヤつきそうなおれは相当変な奴だったと思う。最寄りの駅に着いてからはビックリカツをかごに押し込んで、自転車を漕いだ。家に帰れば山盛りのから揚げだ。今日のできごとを振り返りながらおれはペダルを踏み込んだ。誕生日って、やっぱり良いわ。
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