第1話

文字数 1,283文字

小さい頃はなんでも信じることができた。お化けもサンタクロースも妖精も……探せばどこかにいるだろう。そう思っていた。だが、周りは成長し大人になるころには、
「そんなの迷信だ」
と言うようになってしまう。むしろ信じている方がおかしい、なんて言われてしまう。だが、僕はどうしても諦めきれなかった。普通の一般企業に勤めながら休みの日は未だにそういった迷信と言われるものの存在を探し続ける、いわば探偵というものだ。
僕の勤めている企業は月曜日と木曜日が休みだ。なぜかはわからないが。だが、好都合とも言える。土曜や日曜は休みの人が多いからどこに行っても人がいる。しかし、平日のしかも朝なんて散歩しているおじいちゃんおばあちゃんしかいない。誰にも邪魔されずあの影を探すことができる。……だが、今まで何も見つかっていない。何年も何年も探しているのに、あの影は見つからない。何度か見間違いだったのでは、と思うこともあったが、こんなに長い期間探しているのだ、諦めたくない。今日も近所の河川敷で調査をしている。

「あれ、山田?」
なんとなく聞いたことのある声がする。振り向くと高校時代の友だちである川口が後ろにいた。
「やっぱり山田だ!久しぶりだな、何してたんだ?」
「妖精探しだよ」
「まだ続けてたのか……お前も懲りないなぁ」
笑いながら言われたが、彼は僕が諦めの悪い人間だと言うことはよく知っている。
「で、見つけられたのか?その妖精とやらは」
「いや……まだだ。何かこう、もっと細かい特徴とかがわかれば探しやすいんだが。」
川口は少し考え込んだ表情をしている。
「よし、折角だ。俺も手伝ってやる」
「いいのか?」
「今日仕事休みだし。っていうか高校時代たまに一緒に探したことあっただろ」
川口は遊び程度かもしれないが、僕は本気だ。だがしかし、たまには誰かと探すのも悪くない。
そこから数時間、川口と他愛のない話をしながら妖精探しに励んだ。どうやら彼は今彼女がいてもうすぐプロポーズをするらしい。僕は当然いない、というのを伝えた。やっぱりな、と笑われてしまった。そうこうしている内に夕方が近づいてきた。
「今日はありがとな、妖精探し付き合ってくれて」
「ま、たまにはこういうのも楽しくていいな」

帰ろうか、とその場を立ち去ろうとすると何か大きな影が見えた。
「なぁ、川口」
「あぁ……なんかいたな」
ついに、ついに見つけれた。そう確信した僕たちはその影が見えた川の方へ近づいてみる。しかし、そこにいたのは小さな子どもだった。
「なんだ……子どもか……」
「おじさんたち誰?」
ついにおじさんと呼ばれるようになってしまったのか、とショックを受ける川口と、妖精ではなかったことにショックを受ける僕たちの顔をその子はじっと見つめてきた。
「もしかしておじさんたちも妖精さん探しに来たの?」
そう言われ、僕たちは驚いた。
「ボクね、ここで妖精さん見たの!また会えないかなぁって思って探しに来たの」
僕と川口は顔を合わせ、笑いあった。やっぱり妖精はいるのだ。子どもの見間違いかもしれないが、きっといるのだ。そう確信した僕たちは子どもと別れ、帰路に着いた。
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