第1話

文字数 1,228文字

わたしの挙げる悲鳴は、きっと誰にも届かないだろう。

“美しい”
それがわたしの生まれ持った不幸だった。

異国の血をもって生まれた私はこの国では“美しい”とされた。
子供のころから外を歩くと人々の視線が痛いほど刺さった。ただ歩くだけで、電車に乗るだけで、言葉を発するだけで、私は周りにいる人達の注目の的だった。
それは大人になるほどひどくなった。成長と共に手が伸び、足が伸び、それが美しいとされた。歩けば人の目にすぐに留まった。
隣を通り過ぎるたび、あったこともない、話したこともない、声すら聞いたことのない人たちが私を物珍しそうに見た。まるで何かの見世物であるかのようで、わたしはただ普通になりたいと願いながら下を向いて歩いた。

さらに追い打ちをかけるかのように、私と知り合った人たちは勝手に私に可能性を感じ始めた。私の生まれ持った見た目をわたしの才能であるかのように説き始めた。ほかの人とは違う見た目を持つ私を見て、皆声高々に、偉そうに、わたしの未来に提案を出すようになった。
私の才能は美しいことだった。
人はみな羨ましがった。私のことをすごいとたたえた。

でも、
わたしは何を称えられているのかよくわからなかった。
私が美しく生まれたことはわたしが頑張った結果に起こったことではない。
私が美しく生まれたことはわたしとは何も関係ない。
わたしは何もしていないのに。わたしは頑張ってないのに。
まるでわたしの手柄であるかのように、皆私のことをほめた。皆私はすごいといい続けた。
わたしには違和感しかなかった。

皆私を褒めた。誰一人として、わたしを褒めてくれた人はいなかった。
私が褒められるたびに、わたしは何がすごいのか、わたしは何を頑張ったのかの実感がなくて怖かった。
私が褒められるたびに、わたしには何もないのではないかという想いが芽生え育っていった。
私の見た目を恨んだ。どうしてこんな姿に生まれてきたのか私をひどく恨んだ。
辛かった。怖かった。私の見た目しか人の目には留まらず、称えられるたびにわたしは自分の中が空っぽになっていくように感じた。
辛い、怖い、苦しい、暗い。

何度も何度も悲鳴を上げた。
私をみないで、わたしをみて

何度も何度も、悲鳴を上げて
何度も何度も、助けを求めた。

でも、
誰にも届かなかった。
私は才能があるから。私は恵まれているから。
悩んでるはずがない。悩むべきではない。悩みの種を持っていいわけがない。

辛いと言ったら、贅沢言うなと言われた。
苦しいと言ったら、自分の持っているものを活かすべきと言われた。
しんどいと言ったら、持っているものがあるのにもったいないと言われた。

わたしには身に覚えのないものを才能だと言い聞かせられた。
わたしが苦労して得たものではないものをどう活かしたらいいのかわからなかった。

私をみないで、わたしをみて

そうやってわたしは悲鳴を上げ続けた。

私をみないで、わたしをみて

でもこれからも
わたしの挙げる悲鳴は、きっと誰にも届かない。


私をみないで、わたしをみて
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