(一)

文字数 405文字

 自分の家庭が普通ではないことに小森江直美が気づいたのは、中学生のときのことだ。それは学校での三者面談ときの、担任の言葉がきっかけだった。
 進路についての話し合いの場で、担任教師は「お前はどうしたいんだ?」と聞かれた。もちろん教師にとってはごく普通の質問だったと思う。しかし直美にとって教師の言葉は衝撃だった。しかもその直後、ベラベラ自分の希望などをまくし立てる自分の母親の言葉を遮り、担任は「お母さんは黙っていて下さい。今、直美さんに聞いているんですから」とも言ったのだ。
 直美は子どもの頃から親の言うことを聞くいい子だった。そうなりなさいと言われて育ってきた。だから直美はいい子になった。
 高校受験も母親が行けと言われる高校に進学することになると、直美はなんとなく思っていた。そうはっきりと考えていたわけでない。行きたい高校が特にあるわけではなかった。どうなるかなんて全く考えたことがなかったのだ。

(続く)
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