第1話 水晶球
文字数 3,940文字
それは2075年、春。
繁華街の路地で夜中一時過ぎに開くその店を見つけてまず目についたのは、
ちきゅう屋
と黄色く輝くネオンに浮かぶけばけばしいショッキングピンクの文字。
店頭に立つ若者は赤地に銀色の鯉が刺繍された野球帽を目深に被り、体を揺すりながらタブレット型のガムを口の中に放ってくちなくちゃやっている。
「ねえねえお兄さん、ここが例のお店かい?」
被っているニットからスウェットの上下まで全身黒ずくめ。両目から後頭部にかけてまるで鉢巻みたいな真っ黒なゴーグルを装着している青年を見て若者は一瞬驚いた。
が、すぐに「お客サン、こんな店でもいちおう光彩認証するから眼鏡を取っていただかないと」と卑屈な笑みを浮かべた。
「いいよ」と真砂 はすぐにゴーグルを取り、黒いニットキャップを外してネオンの下で素顔を晒した。ふぁさっ、と砂色の前髪が鼻先に落ち、鷲鼻で彫りの深い顔立ちがあらわになる。
「これでOK?」と認証用の携帯光彩読取機を覗き込む瞳もまた砂色。彼がにこりと笑うと誰でも蕩かしそうな位の美青年である。
店頭の若者は真砂の容貌を見ても何ら驚くことは無く、きっと生まれつき体の色素が薄く、日光を避けて生きるストレスを発散するために夜の街の娯楽を求めに来たのだろう。
50年前の戦乱後、汚染物質が渦巻く世の中で彼のような遺伝子変異は「よくある事」だった。
「はいっと…これでオッケーよ」と光彩スキャンを終えてから若者が重い樫の扉を開け、真砂を入店させた。
ちきゅう屋の薄暗い店内に入ってすぐ左手のカウンター上には黒い蝶ネクタイを付けた三毛猫型アンドロイドが
「イラッシャイマセMサマ」とわざわざ真砂をイニシャルで呼び、目を青く光らせて出迎えてくれた。
違法な商売やってる癖に、客のチェックには厳しい店。
という印象を真砂は受けた。
そういう店は大抵有名人とその関係者が利用していて管理に何重ものチェックをかけて情報が洩れないようにしているものだ。
それよりもとりわけ真砂の目と興味を惹いたのは…身長180センチの真砂が両手でやっと抱えることが出来るほどのほぼ球体に近い巨大なガラスボトル。
上部のすぼまった口からエアーが入れられ水で満たされたボトルの中には白砂と数種類もの水草が植えられ水草の中で赤と黒の斑入りの金魚が十数匹、えらと口を開閉させて忙しなく泳いでいる。
「ソノ瓶ハ『ちきゅう』トイイマス。昭和時代、駄菓子屋で飴、干菓子等ヲイレテ店頭販売シテイタ頃の遺物デス」
さっきの三毛猫が真砂に向けて「アーカイブ昭和、駄菓子屋の風景画」の、駄菓子屋で子供たちを相手にする老女の横に陳列された小振りな瓶、その中には水色、黄色、ピンク色、緑色の大きめの飴が入っている記録映像をカウンター上のタブレットに映してくれる。
AIにしては高機能というか随分気の利く奴だな。
と真砂は思った。
そうしてちきゅうの中の金魚をしばらく眺めてから次の部屋を仕切る黒い分厚いカーテンをくぐると中は通路を挟んで薄いピンク色のカーテンで8室になるよう仕切られており、自分が案内された右側一番奥のカーテンを開くと中には歯医者の治療台のような電動チェアー。
背もたれの首の辺りから先端の針にビニールカバーが掛かったコードが垂れ下がっている。
茶色の髪を束ねた案内役の女性店長が業務的な笑みを浮かべて部屋に入って来た。両手には直径20センチ程の水晶球を抱え、随分重そうに脇のテーブルに置いた。
「高科優 様はご来店は初めてでしたね?」
「ええ、登録だけで来るのは初めて」
「では当店のサービスをご説明致します」
人間は生誕時、あるいは胎内に居た時から外部の音、振動、声、等の刺激を受けて育つ。
それは成長して何十年経って忘れたつもりでも脳は全て覚えていて、ふとした刺激が引き金となって他者から否定、拒絶、攻撃された記憶が蘇り時と場所構わず恐怖、という名の防御体制を取らせ、人生において人を苦しめる。
「これを半世紀前はトラウマ(心理的外傷)と呼んでお薬や対症療法で治療していた事もあったのですが、当社ではこの治療装置CT-0032により脳に直接アクセスする事でトラウマを消し、自己を肯定出来るようになるのです」
「ちょっと待って、本当は消えることのないトラウマを消すってどういうわけ?」
それもご説明致しますね、と店長は水晶球型モニターを起動させて、中年の男性が険しい顔でこちら側を指差して
「お前はこの家の恥だな」
「そんな簡単な問題も解けないのかっ!」「…もう、せいぜい迷惑をかけずにいてくれ」と次々と否定的な台詞を吐く映像を写し出す。
「これが脳では他者からの攻撃。つまり心の傷ですね」
「うへえ…親父から散々言われた事思い出した。言葉って大事だ」
「これを施術中にこう書き換えます」
切り替わった映像は先ほどの父親が優しく迎えるように両手を広げ、
「お前はこの家の宝だ」
「何度か繰り返せば解けるようになるさ」
「生まれてきてくれただけで感謝だよ」
と誉めてくれる映像。
「消す、というよりは記憶の上書きなんだね」
診療台からたれさがったコードの針を見て真砂は、つまりこれを脳髄に差し込むって訳か…と渋面をした。
「そうです、施術後には生まれ変わったように自己肯定感に満ちた自分になれますよ。さあ力を抜いて目を閉じて」
サングラスをしたまま診療台に横たわる真砂の腕に店長が麻酔薬の注射をしようとした時、
「い、や、だ、ね!」
と真砂が指を弾き、同時に水晶球と注射のガラス管が割れた。店長の体が恐怖で動けなくなる。
「そんな荒療治を受けて自己肯定感を取り戻しても家に帰ればどうしようもない現実と変わらない家族が待っている」
診療台から降りた真砂はさらに左手の手刀を振り下ろして隣三室のカーテンを全て真空波で切り裂いた。
子宮と同じ色をしたカーテンが次々と床に落ち、晒された隣室では延髄から脳に向かって電極を差し込まれた高校生から大学生の若者たちが実の親から掛けてもらえたことのない…
よし、よし、よし。という作られた抱擁を受けて法悦とした笑みを浮かべている。
隣室の若者たちの中に「対象」が居ない事を確認すると真砂はさらに右手の手刀で前方を真一文字に切り裂いて通路向こうの四室まであらわにした。
ゴーグルのスキャニング機能で一番右側のひどく痩せこけて経静脈からの栄養点滴で繋がれている客が対象、磐倉時男。21才。
完全に意識が落ちている。
と読み取るとゴム手袋はめてから水晶球の機能を停止させて彼の延髄から慎重に電極を抜き取り、彼の体を左肩に担いで裏口から脱出しようとしたその時、
拳銃を持った店のスタッフ達が五人、真砂を取り囲み「さっさと人質をベッドに戻しな!」と先程の女性店長が薄ら笑いを浮かべながら真砂の頭に銃口を向けている。
「…もう『肯定依存症』の患者を人質にして三億も身代金を取ったんだから十分じゃないの?脳科学者の藤本康子さん」
「まだ足りない」
「え?」
「あと十五億無いと私の研究は製品化出来ない。やっと薬物無しに人間をトラウマから解放する革新的な治療法を確立したのよ!」
「その結果どうなった?装置に繋がれたまま目覚める事を拒否する、または自意識過剰になって人の意見を聞かない肯定依存症という新たな病を生み出したじゃないか」
真砂は肯定依存症に陥り機械に繋がれたまま眠り続ける若者たちを哀れみを込めて見た。
「なーにが革新的だ。僕から言わせりゃこれは原始的な洗脳だ」
うるさい!と康子が引き金を引こうとしたのと空いた右手で真砂
「これでも喰らいな!」
と高周波の叫び声を上げて半覚醒状態にある若者に繋がれている水晶球を全て破裂させた。
康子と部下たちは襲いかかる破片に反射的に目を背け、
客の若者たちは強制的に目覚めさせられて飛び起きた瞬間、
飛び散ったガラス片がまるで輝く雪のように室内に舞う光景を見て…
ああ、物心ついて初めて目覚めるってのはいいもんだな。と思った。
その間に客の高梨優(仮)は人質の大学生を担いで店舗ビルの屋根伝いに脱出していた。
「救出対象の父親が『なぜすぐに息子を家に帰さない?』とゴネているんだがね」
三時間後。
半身機械化した体に白衣を引っ掛けた父親のコウ博士が任務を遂行して帰ってきた真砂に尋ねると、
報酬を前金で貰ったからやった事だけど、真砂は前置きしてから「知り合いの臨床家のところに預かってもらった。時男くんが自ら家に帰らなくなったのもあの父親が原因だから」
真砂は時男の脳に繋がれた水晶球を通して見たのだ。それは鉄拳制裁ありきの幼少時に父親から受けた苛烈なスパルタ教育を。
「今回は『ヒット』ではなく救出依頼だ、助けた対象にすぐ自殺されても遣りきれないから」
と言って真砂は好物である砂糖多めの卵焼きを三口で平らげると「気に入ったんでこれお土産」と言ってナップサックから取り出したのは…
テーブルの上で伸びをする三毛猫。
「こりゃ驚いた…極めて自然に近い動きするアンドロイドは初めてだ!」
と驚喜する父親に、
「解析したら面白い情報色々出るかもしれないよ」と微笑んで言った真砂は自室のベッドに横になりアイマスクを付けたまま、
肯定依存症の店本部を一斉検挙。
と相変わらず肝心な事を伝えないをラジオを切った。
血の繋がりが無いけれど、遺伝子変異を起こしたために廃棄される筈の受精卵だった僕を救い出して育ててくれた父さんと、
血の繋がった息子に過剰な期待を掛けて逃げられた磐倉製薬社長。
父さん、この世界は何が自然でいつから何が本当の自然で無くなってしまったんだろうね。
父親に肉体改造を施された超能力者、晃真砂 が
夜明けと共にまどろみながらが見たのは、
限られた光と空気の中
ちきゅう、と云う名の瓶で赤や黒の金魚たちが生き生きと泳ぐ夢。
繁華街の路地で夜中一時過ぎに開くその店を見つけてまず目についたのは、
ちきゅう屋
と黄色く輝くネオンに浮かぶけばけばしいショッキングピンクの文字。
店頭に立つ若者は赤地に銀色の鯉が刺繍された野球帽を目深に被り、体を揺すりながらタブレット型のガムを口の中に放ってくちなくちゃやっている。
「ねえねえお兄さん、ここが例のお店かい?」
被っているニットからスウェットの上下まで全身黒ずくめ。両目から後頭部にかけてまるで鉢巻みたいな真っ黒なゴーグルを装着している青年を見て若者は一瞬驚いた。
が、すぐに「お客サン、こんな店でもいちおう光彩認証するから眼鏡を取っていただかないと」と卑屈な笑みを浮かべた。
「いいよ」と
「これでOK?」と認証用の携帯光彩読取機を覗き込む瞳もまた砂色。彼がにこりと笑うと誰でも蕩かしそうな位の美青年である。
店頭の若者は真砂の容貌を見ても何ら驚くことは無く、きっと生まれつき体の色素が薄く、日光を避けて生きるストレスを発散するために夜の街の娯楽を求めに来たのだろう。
50年前の戦乱後、汚染物質が渦巻く世の中で彼のような遺伝子変異は「よくある事」だった。
「はいっと…これでオッケーよ」と光彩スキャンを終えてから若者が重い樫の扉を開け、真砂を入店させた。
ちきゅう屋の薄暗い店内に入ってすぐ左手のカウンター上には黒い蝶ネクタイを付けた三毛猫型アンドロイドが
「イラッシャイマセMサマ」とわざわざ真砂をイニシャルで呼び、目を青く光らせて出迎えてくれた。
違法な商売やってる癖に、客のチェックには厳しい店。
という印象を真砂は受けた。
そういう店は大抵有名人とその関係者が利用していて管理に何重ものチェックをかけて情報が洩れないようにしているものだ。
それよりもとりわけ真砂の目と興味を惹いたのは…身長180センチの真砂が両手でやっと抱えることが出来るほどのほぼ球体に近い巨大なガラスボトル。
上部のすぼまった口からエアーが入れられ水で満たされたボトルの中には白砂と数種類もの水草が植えられ水草の中で赤と黒の斑入りの金魚が十数匹、えらと口を開閉させて忙しなく泳いでいる。
「ソノ瓶ハ『ちきゅう』トイイマス。昭和時代、駄菓子屋で飴、干菓子等ヲイレテ店頭販売シテイタ頃の遺物デス」
さっきの三毛猫が真砂に向けて「アーカイブ昭和、駄菓子屋の風景画」の、駄菓子屋で子供たちを相手にする老女の横に陳列された小振りな瓶、その中には水色、黄色、ピンク色、緑色の大きめの飴が入っている記録映像をカウンター上のタブレットに映してくれる。
AIにしては高機能というか随分気の利く奴だな。
と真砂は思った。
そうしてちきゅうの中の金魚をしばらく眺めてから次の部屋を仕切る黒い分厚いカーテンをくぐると中は通路を挟んで薄いピンク色のカーテンで8室になるよう仕切られており、自分が案内された右側一番奥のカーテンを開くと中には歯医者の治療台のような電動チェアー。
背もたれの首の辺りから先端の針にビニールカバーが掛かったコードが垂れ下がっている。
茶色の髪を束ねた案内役の女性店長が業務的な笑みを浮かべて部屋に入って来た。両手には直径20センチ程の水晶球を抱え、随分重そうに脇のテーブルに置いた。
「
「ええ、登録だけで来るのは初めて」
「では当店のサービスをご説明致します」
人間は生誕時、あるいは胎内に居た時から外部の音、振動、声、等の刺激を受けて育つ。
それは成長して何十年経って忘れたつもりでも脳は全て覚えていて、ふとした刺激が引き金となって他者から否定、拒絶、攻撃された記憶が蘇り時と場所構わず恐怖、という名の防御体制を取らせ、人生において人を苦しめる。
「これを半世紀前はトラウマ(心理的外傷)と呼んでお薬や対症療法で治療していた事もあったのですが、当社ではこの治療装置CT-0032により脳に直接アクセスする事でトラウマを消し、自己を肯定出来るようになるのです」
「ちょっと待って、本当は消えることのないトラウマを消すってどういうわけ?」
それもご説明致しますね、と店長は水晶球型モニターを起動させて、中年の男性が険しい顔でこちら側を指差して
「お前はこの家の恥だな」
「そんな簡単な問題も解けないのかっ!」「…もう、せいぜい迷惑をかけずにいてくれ」と次々と否定的な台詞を吐く映像を写し出す。
「これが脳では他者からの攻撃。つまり心の傷ですね」
「うへえ…親父から散々言われた事思い出した。言葉って大事だ」
「これを施術中にこう書き換えます」
切り替わった映像は先ほどの父親が優しく迎えるように両手を広げ、
「お前はこの家の宝だ」
「何度か繰り返せば解けるようになるさ」
「生まれてきてくれただけで感謝だよ」
と誉めてくれる映像。
「消す、というよりは記憶の上書きなんだね」
診療台からたれさがったコードの針を見て真砂は、つまりこれを脳髄に差し込むって訳か…と渋面をした。
「そうです、施術後には生まれ変わったように自己肯定感に満ちた自分になれますよ。さあ力を抜いて目を閉じて」
サングラスをしたまま診療台に横たわる真砂の腕に店長が麻酔薬の注射をしようとした時、
「い、や、だ、ね!」
と真砂が指を弾き、同時に水晶球と注射のガラス管が割れた。店長の体が恐怖で動けなくなる。
「そんな荒療治を受けて自己肯定感を取り戻しても家に帰ればどうしようもない現実と変わらない家族が待っている」
診療台から降りた真砂はさらに左手の手刀を振り下ろして隣三室のカーテンを全て真空波で切り裂いた。
子宮と同じ色をしたカーテンが次々と床に落ち、晒された隣室では延髄から脳に向かって電極を差し込まれた高校生から大学生の若者たちが実の親から掛けてもらえたことのない…
よし、よし、よし。という作られた抱擁を受けて法悦とした笑みを浮かべている。
隣室の若者たちの中に「対象」が居ない事を確認すると真砂はさらに右手の手刀で前方を真一文字に切り裂いて通路向こうの四室まであらわにした。
ゴーグルのスキャニング機能で一番右側のひどく痩せこけて経静脈からの栄養点滴で繋がれている客が対象、磐倉時男。21才。
完全に意識が落ちている。
と読み取るとゴム手袋はめてから水晶球の機能を停止させて彼の延髄から慎重に電極を抜き取り、彼の体を左肩に担いで裏口から脱出しようとしたその時、
拳銃を持った店のスタッフ達が五人、真砂を取り囲み「さっさと人質をベッドに戻しな!」と先程の女性店長が薄ら笑いを浮かべながら真砂の頭に銃口を向けている。
「…もう『肯定依存症』の患者を人質にして三億も身代金を取ったんだから十分じゃないの?脳科学者の藤本康子さん」
「まだ足りない」
「え?」
「あと十五億無いと私の研究は製品化出来ない。やっと薬物無しに人間をトラウマから解放する革新的な治療法を確立したのよ!」
「その結果どうなった?装置に繋がれたまま目覚める事を拒否する、または自意識過剰になって人の意見を聞かない肯定依存症という新たな病を生み出したじゃないか」
真砂は肯定依存症に陥り機械に繋がれたまま眠り続ける若者たちを哀れみを込めて見た。
「なーにが革新的だ。僕から言わせりゃこれは原始的な洗脳だ」
うるさい!と康子が引き金を引こうとしたのと空いた右手で真砂
「これでも喰らいな!」
と高周波の叫び声を上げて半覚醒状態にある若者に繋がれている水晶球を全て破裂させた。
康子と部下たちは襲いかかる破片に反射的に目を背け、
客の若者たちは強制的に目覚めさせられて飛び起きた瞬間、
飛び散ったガラス片がまるで輝く雪のように室内に舞う光景を見て…
ああ、物心ついて初めて目覚めるってのはいいもんだな。と思った。
その間に客の高梨優(仮)は人質の大学生を担いで店舗ビルの屋根伝いに脱出していた。
「救出対象の父親が『なぜすぐに息子を家に帰さない?』とゴネているんだがね」
三時間後。
半身機械化した体に白衣を引っ掛けた父親のコウ博士が任務を遂行して帰ってきた真砂に尋ねると、
報酬を前金で貰ったからやった事だけど、真砂は前置きしてから「知り合いの臨床家のところに預かってもらった。時男くんが自ら家に帰らなくなったのもあの父親が原因だから」
真砂は時男の脳に繋がれた水晶球を通して見たのだ。それは鉄拳制裁ありきの幼少時に父親から受けた苛烈なスパルタ教育を。
「今回は『ヒット』ではなく救出依頼だ、助けた対象にすぐ自殺されても遣りきれないから」
と言って真砂は好物である砂糖多めの卵焼きを三口で平らげると「気に入ったんでこれお土産」と言ってナップサックから取り出したのは…
テーブルの上で伸びをする三毛猫。
「こりゃ驚いた…極めて自然に近い動きするアンドロイドは初めてだ!」
と驚喜する父親に、
「解析したら面白い情報色々出るかもしれないよ」と微笑んで言った真砂は自室のベッドに横になりアイマスクを付けたまま、
肯定依存症の店本部を一斉検挙。
と相変わらず肝心な事を伝えないをラジオを切った。
血の繋がりが無いけれど、遺伝子変異を起こしたために廃棄される筈の受精卵だった僕を救い出して育ててくれた父さんと、
血の繋がった息子に過剰な期待を掛けて逃げられた磐倉製薬社長。
父さん、この世界は何が自然でいつから何が本当の自然で無くなってしまったんだろうね。
父親に肉体改造を施された超能力者、
夜明けと共にまどろみながらが見たのは、
限られた光と空気の中
ちきゅう、と云う名の瓶で赤や黒の金魚たちが生き生きと泳ぐ夢。