返事は一度でいい
文字数 1,156文字
これは、大阪の片田舎に、かつて本当にあったかもしれない、なんちゃって演劇部の日常をつづる物語である――
放課後の演劇部では、部員たちが地道な基礎練習に精を出していた。
その姿、さながら赤ん坊のごとく。
床でハイハイの構えをとる一年。それを輪になって見守る部員たち。そんな光景が、ただただそこにあった。
(どうしてこうなった……)
部員の中には、心中にそう呟くものもいたという。
しかしどうしてもこうしてもなく、これこそが陽芽野高校演劇部の日常なのだ。
奇妙な徒労感にさいなまれるメガネを尻目に、副部長は手を打った。仕切り直しである。
はて、と首をかたむけたのは我らがお母さんこと部長であった。
エセチャイニーズの『〜アル』しかり、またはガチ詐欺集団の『オレオレ』しかり、『多分』とは大阪の人間にとって、語尾か冠詞か鳴き声か、というところである。
しかしどうも、この後輩の言う『多分』は文字通りの意味らしい。
それにしても申し訳なさそうにするものだから、先輩連中には微笑ましい空気がただよった。
もとより、絶妙なユルさが売りの演劇部なのである。
なれたもので、ヨリトミがしなを作ってみせるのを、副部長らは完璧にスルーした。
演劇部でかつて、何があったのか――?
一年生のなかには好奇心を覚えるものもあったが、深くつっこむ気概はなかった。
このうえ脱線をさそう質問をしようものなら、副部長による制裁は避けられまい。
うららかな午後に、ひびく『五十音』。
しかしそのひびきもまた、遠くなく新たな茶番か悪ノリにさえぎられることになるのだ。
果たして本当に、彼らが舞台に立つ日はくるのだろうか?
こうご期待――!
☆続かない!