第1話

文字数 1,200文字

「心の貧しい人々は、幸い。天の国はその人たちのもの」マタイ5:3

クリスチャン歴=人生の半分。生業もキリスト教関係。そんなキリスト教漬けの私が納得できずにいた聖句。
特に、私の夫・カッちゃんを見て「心貧しい者の、どこが幸いよ」とつぶやいていた。

カッちゃんは教会の牧師。
今年4月に発達障がい(ASD/ADHD)と診断を受け、こころのクリニックに通院している。
病院からもらった漢方薬を毎日飲んでいる。心が不安定になった時に飲む薬も持っている。

カッちゃんのお父さんは牧師。おじいさんも、ひいおじいさんも牧師。
日本における女性牧師の草分け的存在として1920年代に活躍した親戚もいる。
でも、カッちゃんは自分が「キリスト教版・華麗なる一族」だと誇ることはない。
牧師家庭に生まれ育ったことで傷つき、悩んできたから。

カッちゃんは教会育ちで(当時は分からなかったけれど)発達障がいがあって、ちいさい時から自分が周囲と違うことに気づいていた。

牧師の長男なのだからと親に諭され、自分のやりたいことを我慢したり進路を諦めたりもしたという。
カッちゃんがポツポツと口にする思い出には、大人の私が聞いて怒りに震えるような、クラスメイトたちからの酷いいじめ体験も多い。

カッちゃんは牧師になるための学校でも「鈍臭い、要領が悪い」とからかわれていた。
緊張してつっかえながら話す姿を見て「本当に牧師になるのかよ」といじった同級生たち。
10年以上経った今でも、私はあいつらの顔を忘れない。

カッちゃんを見下す態度を取っていた人たちが、今は礼拝で「心貧しい者は幸い」と偉そうに語っていると思うと、胸クソ悪い。
心貧しき者の、何が幸いなのだ!
不器用なカッちゃんより、世渡り上手な連中の方が牧師として評価されているではないか!

だけど、カッちゃんと結婚して聖書の意味に気づいた。
カッちゃんは他人を悪く言わない。人から決めつけられる苦しみを痛いほど知ってるから。
カッちゃんは他人の悩みを否定しない。「言い訳だ、怠けだ」と責められ落ち込んできたから。
カッちゃんの長年の友人たちは、心が柔らかい。生きづらさを抱える人もたくさんいる。
カッちゃんの周囲には、安心して弱音を話せるあたたかい雰囲気がある。
優しい世界が広がっていく。

キリスト教業界や教会の中では、話し上手で有能な牧師が評価されるかもしれない。
だけど、聖書はそうじゃない。
イエス様は、カッちゃんみたいに心の弱りを覚える人に語りかけたのだろう。
「幸い!心が弱り切った者!あなたたちから、神様の思いは広がっていくんだよ」
「あなたたちの感性や命は、この世で希望の光になれるんだよ」と。

カッちゃんを嘲笑したかつての同級生たち!
あんたたちは言葉が巧みで、さぞかし調子よく礼拝で語るのでしょう。
私は世間がどう言おうと、聖書の言葉を信じる。
「心弱り切った者たちから広がる天の国、神様の思いが染み渡る世界」を祈り求める。
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