終着

文字数 1,992文字

この世界のどこかに不死の種族が住んでいる
そんな伝説を聞いた瞬間、僕の心は鷲掴みにされた
不死の種族はきっと高貴で儚げな老人で
多感な16歳の僕は夢中で想像し思い描いた
あぁ いつか会いたいな!
こうして人生をかけて叶えたい強烈な夢が出来上がったのだ

「苦節50年 ようやく辿り着いたぞ!」
暗い洞窟に声が響く
同世代がゲームで遊ぶのを睨みながらひたすら勉強に打ち込み
英語はもちろん古文書すらも解読できるよう必死で努力し
さらには世界各地の秘跡を巡って不死の種族についてあらゆる情報をかき集めた
それらを繋ぎ合わせた結果 ここが入口で間違いないだろう
秋葉原にある神社の霊穴洞窟
まさかこんな場所に隠れているとは!
黙々と歩けばすぐに光が見えてきた
いよいよ待ちに待ったご対面だ
もはや駆け足で光の中へ飛び込めば
「あらお客さん?」
「うわ~!遊んで遊んで!」
「こら 知らない人に近寄らないの」
洞窟内とは思えない暖かな光に照らされて、大量の子供が走り回っていた

「……なんだこれは 若返りによる不死か?」
「なにブツブツ言ってんのよ アンタ誰?」
「あぁすみません 初めまして、学者の松原と申します」
ポカンとした顔で眺めていれば高校生くらいの少女が近寄ってきた
見た目は人間と全く一緒 むしろそれよりも幼く見える
「で?学者がどうしてここに来たの?」
「不死の種族に会いにきました 子供の頃からの夢だったのです」
「あら残念 私達は不死じゃないわよ」
「不死じゃない……とは?」
「寿命が長いだけよ 私達は大体300年生きるの」
「なるほどそれで」
「流石学者さん勘が鋭い! たとえばアナタが私と出会った話を周囲に語った その100年後、別な人間が私と遭遇して周囲に語れば」
「あれ?全く同じ話が100年前にもあった! そんな驚きが広がるだろう」
「さらに私達は1人じゃない 見てわかるように子供がいるから数百年後にも同じ場所で似たような女性と出会った話が出来上がる」
「それらが積み重なれば充分不死だと勘違いされるわけか」
「そういうこと ねぇ、私何歳に見える?」
「う~ん 高校生くらいの見た目だし10代後半かなぁ」
「生まれてから48年経ってるわ」
「……えっ!?48歳!?」
「さっき言ったでしょ 私達は人間の3倍長生きするの だから子供でいる期間も人間の3倍、いやそれ以上よ」
理屈を聞いても信じられない
どう見ても目の前の少女は未成年
背も小さく顔に皺もなく子供そのままだ
「とんでもない顔してるわね そんなに驚き?」
「いや、すまない なんとなく不死といえば老人のイメージだったので」
「アナタがもしも不死なら体が動かないヨボヨボ老人と元気溌剌無邪気な子供 どちらでより長く過ごしたい?」
「そりゃあ子供だが」
「でしょ?だから私達は100年かけて子供を謳歌し、大人として180年生きて、残りの20年を老人として過ごす そんなサイクルで生きているの」
「じゃあ君はまだまだ子供なのか」
「私達の種族ではピッチピチの16歳よ 交尾は普通に出来るけどする?」
「レディーがそんな事言うもんじゃありません!」
「人間換算48なんだからいいじゃない」
話していて少し混乱する
ティーンエイジャーと話しているかと思えばオバちゃんの影が見えて怖い
その2つが合体し、ガサツに踏み込む下ネタマシーンとなってないか?
「それに私達の遺伝子は強いわよ 人間と交尾したらその子が短命種に~なんて事故も無し」
「そういう遺伝子や君達の技術が悪用される事はないのか?」
「ないわよ 仕組みを解明しても人体に適用できないらしいし、私達の技術は低いしね」
「そんな馬鹿な 長命なんだから高度な文明が」
「人生の3分の1が子供だからね 人間でも子育ての大変さは嫌って言う程聞くでしょう? それが100年続くのよ」
「それでもなにか革新的な技術とか」
「私達基本頑張らないの 本能として現状維持できればそれで充分 ただ数百年に一度稀に見る天才が現れる事があってね その人が革命を起こしてスタンダードを作り、また同じような天才が現れるまでそれを維持」
「随分惰性的な本能だなぁ」
「長生きだから仕方ないじゃない あっ!それでも唯一得意な事はあるわよ!」
「それが聞きたかった!」
「ゲームの修理」
「……は?」
「長生きすると暇なのよ だから娯楽が欠かせない そこで人間の作るゲームを買い漁るが30年も遊べば壊れてしまう というわけで自分達で直せるよう、ゲーム機やPCの修理技術が発達したわけ」
「まさか秋葉原に住んでいるのも」
「その通り!必要なパーツや懐かしのソフトが買いやすくて助かるわ~」
腰が抜けてへたりこむのを必死に我慢する
16歳から憧れ続けた夢が非情な現実に塗りつぶされた
そんな馬鹿な 高貴で儚い不死の種族はどこにもいないのか
「新品同様に動くセガサターンあるけど遊んでく?」
泣き崩れそうになる目の前で自称16歳が眩く微笑んだ
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