春・無名の日
文字数 483文字
空高く澄み切った青い空に鳥の囀りが、春の芽吹きの香りと水分を含んだしっとりとした風が川の水の表面を撫ぜて吹き抜けてゆく。
耕一は、釣り竿から垂れ下がる釣り糸を眺めていた。釣り糸が浸かっているところから水が波紋状にひろがっていく。
別に魚が釣れたらいいとは思っていない。ただ釣り人の格好をして川に来て、釣り竿を握り水面を眺める。実際、魚が釣れたことは一回もない。しかし、魚がいないわけでもない。魚が遠く上流の方でポチャんと跳ねるのをみたことがある。ただ、耕一の側に釣ってやろうという気持ちがないから釣れないのだろう。
風が吹き、木がザアッと揺れた。
ザワザワと大きく揺れた後、小さな葉っぱ達が何か話しているかのようにあちこちでコソコソ言ったと思ったら、風が止み全員がしん、と静まり返った。耕一は急に自分が一人でいる事を意識した。耕一は少し怖いような気持ちになった。
冬の間ずっと縮こまって冷たく暗いところで眠っていたのが、少しずつ解放されつつある。
それらが自分の身体のすぐ近くまでゆっくり、ゆっくり迫ってくるように感じるのだった。
まだ朝6時頃だから日は高くない。
耕一は、釣り竿から垂れ下がる釣り糸を眺めていた。釣り糸が浸かっているところから水が波紋状にひろがっていく。
別に魚が釣れたらいいとは思っていない。ただ釣り人の格好をして川に来て、釣り竿を握り水面を眺める。実際、魚が釣れたことは一回もない。しかし、魚がいないわけでもない。魚が遠く上流の方でポチャんと跳ねるのをみたことがある。ただ、耕一の側に釣ってやろうという気持ちがないから釣れないのだろう。
風が吹き、木がザアッと揺れた。
ザワザワと大きく揺れた後、小さな葉っぱ達が何か話しているかのようにあちこちでコソコソ言ったと思ったら、風が止み全員がしん、と静まり返った。耕一は急に自分が一人でいる事を意識した。耕一は少し怖いような気持ちになった。
冬の間ずっと縮こまって冷たく暗いところで眠っていたのが、少しずつ解放されつつある。
それらが自分の身体のすぐ近くまでゆっくり、ゆっくり迫ってくるように感じるのだった。
まだ朝6時頃だから日は高くない。