第1話

文字数 670文字

夜が好きだった。
みんな寝る頃。
わざと独りで、新幹線の高架下。
宇都宮線と両毛線の分岐点、行き止まり。
空を見上げてまた戻る。
ボロ家を過ぎて、反対側へ。
踏切の音、長い長い貨物列車。
線路と工場に挟まれた袋小路から、少しだけ明るい通りへ。
赤ちょうちん。
カラオケの、音。
うん。
このくらいが、ちょうど良い。
両毛線の踏切まで歩くと、いつも引き返したけれど、その晩はもっと歩きたかった。
国道へ。
また、路地へ。
キンカ堂。
いや、今はサラディ。
ちいさい頃食べたアメリカンドッグのマスタードの味。
どこまで歩いても何も変わらないから、駅まで行こうか?
駅の北側、静かだ。
駅を越えたら明るいだろうか?
ダメだ。
引き返す。
それは偽物の夜の太陽。
僕の太陽は、ずっとこのアスファルトの裏側にあって、僕を照らす事はない。
いや、僕らを照らす事はない。
昼間の太陽?
あれは、他の誰も、みんなの為の太陽なんだ。
僕ら以外の、ね。
もしかしたら、この夜のどこかにひとりくらいは、似たような人が居るかもしれないけれど。
随分歩いちゃったな。
帰り道、少し冷えるかな。
走る気分にはなれないな。
あの、この世の果てみたいなちいさな、それでも僕らには随分と豪華な家。
その、ベニヤで増築された寝床で丸まって眠る為に、ゆっくり引き返す。
コンビニ、煙草。
うまくは、なかった。
逃れられない闇。
昼間の方が、もっと暗い。
まばらな街灯、看板、赤ちょうちん。
だから、そんなちいさな偽物の太陽が薄く照らす夜の、その光をかいくぐって、誰も居ない。
静かな、ここが僕の居場所。
寒いから、真っ暗な袋小路へ、いつも帰っていくんだけれども。
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