第6話 おまけ①【入れ違い】

文字数 1,953文字

ハーメルンの笛吹き男と子供たち
おまけ①【入れ違い】





 それは、ライアが捕まる前のこと。

 奴隷ばかりがいる牢屋に、一人の男が捕まってきたそうだ。

 「まじかよ。俺今日から奴隷なの?」

 男は銀色に髪を輝かせ、眼帯をしていた。

 見張りは男を蹴飛ばすと、眼帯を外せと言ってきた。

 「外してもいーけどよ、吐かない?」

 「何を馬鹿なことを」

 「いやいや、結構コレ外すと、気持ち悪いって吐く奴が続出するわけ。こんなところで吐かれたら、溜まったもんじゃねーっしょ。俺達はここで寝泊まりするんだぜ?」

 「・・・・・・」

 「自分で見てもおえーってなるんだけどなー。・・・それでも見る?」

 「もういい」

 男は奴隷として捕まったにも関わらず、平然としていた。

 同じ牢屋にいる男たちは、じろじろと見ている。

 「俺さ、女の子に見られるのは好きだけど、男に見られる趣味はねーし、嬉しくねーんだけど」

 そう言うと、牢屋の隅の方に行き、横になった。

 「あんた、名前は?」

 「あん?俺に興味あんの?お前男色?」

 「いや、そうじゃなくてよ、もしかして・・・」

 「おい、そこのお前!」

 ようやく寛ごうとしていた男だったが、見張りによって呼ばれた。

 最初はしらーっと聞こえないフリをしていたが、五月蠅いのでしかたなく見張りの方に近寄った。

 真っ直ぐに立った男は、思ったよりも身長が高く、見張りの男はグッと仰け反る。

 「お、お前を呼べとのことだ!早くしろ!」

 「俺?なになに?俺、重労働は苦手な人よ?」

 「違う!伯爵家のお譲さまがお呼びだ!その、相手をしろとのお達しだ!」

 「・・・・・・ああ、女相手?まあ、それならいっか!」

 うーんと背伸びをすると、男は見張りに連れられて牢屋を出て行った。

 男が連れて来られた場所は、地下を通ってなので、よくわからない。

 「こちらだ」

 急激な明るさに、思わず顔をしかめてしまう。

 だが、慣れてくるとそこは超がつくほどゴージャスな部屋だった。

 ある一室の前まで案内されると、中からは男女の営み中とは思えないほど、悲鳴が聞こえる。

 「わお。デンジャラス」

 男がノックもせずに部屋に入っていくと、そこには女王様気取りの女と、女に縛られ鞭を打たれて苦しんでる見苦しい男がいた。

 「お邪魔したかな?」

 男の方を見て、女はニヤリと笑う。

 「いいえ。丁度飽きてきたところなの。こっちに来てくださる?」

 顔から出るもん全部出てるんじゃないかというほど、男は苦しそうだ。

 そんな男を部屋の外に放り出すと、女はテーブルの上に用意してあったワインをグラスに注ぐ。

 「いかが?」

 「じゃー、お言葉に甘えて」

 そう言って、女の手からグラスを受け取ろうとすると、女はわざとグラスを落とした。

 カーペットについてしまったシミを見て、もったいないと思ったのは、また別の話。

 「じゃあ、私の可愛いペットちゃん。好きなだけ舐めてよろしくてよ?」

 ―とんだドSだな。

 はあ、と男はため息を吐くと、テーブルの横にあった椅子に腰かける。

 「俺ぁ、そんな趣味はねぇんだよ」

 まだ中身のあるワインを掴むと、そのまま口へと運んだ。

 ごくごくと口に含むと、男は立ち上がって女に近づく。

 「ん」

 女の後頭部を支えると、自分の口にあるワインを女に飲ませる。

 口の隙間から零れていくワインは、女の肌に吸い付くようだ。

 「随分なじゃじゃ馬譲ちゃんだな」

 そんな男の言葉に、女は頬を染めながら両腕を男の首の裏に巻き付けて行く。

 「たまには、男の怖さってもんを知ったほうが良いぜ」

 口説いているのか、男は巻きついてきた女を軽々持ち上げ、ベッドに投げた。

 男が女に覆いかぶさり、口づけようとしたその時。

 男は隠し持っていた薬を女に嗅がせ、眠らせた。

 「お前みたいな女は趣味じゃねーつの」

 部屋を見渡すと、そこにあった電話を手に取り、どこかにかける。

 しばらくすると、男は部屋の窓を開けた。

 「おさらばおさらば」

 ひゅんっ、と窓から飛び降りると、屋敷の塀も簡単に飛び越えた。

 そして一つ目の角を曲がると、そこに立っていた少年に声をかける。

 「待ったか?」

 「・・・まさか捕まっているとは思いませんでした、イデアムさん」

 「ハハハハ。まあまあ。それより、さっさと正体バレる前にずらかるぞ」

 「誰のせいだと」

 「俺かな?」

 「ん?」

 馬に乗って颯爽と走っていると、赤く燃える街が見えた。

 「おい、ちょっと寄り道するぞ」

 「え?あ、はい」







 「なんとか間にあって良かったですね」

 「あれだけの被害があって、間にあったわけねーだろ」

 「すみません」

 「それにしても」

 「はい?」

 「・・・面白い奴がまだいたな」

 「?」



 革命家イデアムが世に与えた影響は、歴史の影に覆われるのは、まだ先のことだ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ライア:あの男の子孫?

心優しき青年で、幸せにすべく笛を吹く。


『いつか訪れるその日まで』

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み