第1話

文字数 1,690文字

「完太さんとは初めて会った気しないよね。」

おお、これは初めての好感触か!

「聞いたことあるような話ばっかりするからさ。もっと完太さんしかできない話とかないの?」

面接官の口から発せられる煙草の匂いを纏った言葉たちは、僕にあっけなく不合格を突きつけた。


またダメだった。これで記念すべき50敗目。
「人より早く」をモットーに大学3年の10月からありとあらゆる業種の採用試験を受けてきた。
しかし結果はご覧の通り。
4年秋に差し掛かった現在、あっという間の遅れ組。毎日毎日、凡人、無個性の烙印を押され続ける日々に憔悴してしまった。


僕は真面目だけが取り柄として生きてきた。
子供の頃は学級委員を務め、テストでは常に100点。 先生からの評価は高く、いつもえらいと褒められた。 
僕自身、僕を“良い子”だと疑ったことはなかった。 
しかし自己評価の高さからか自分がなんでもできる子じゃないと許せなくなった。 
それがこの代償。面接でも"良い子"であることを優先してしまう。みんなが思う"良い子"の基準に沿って言葉を発してしまうからか、面白味のない人間になるのだ。

そんな少しの面接の反省と昔を振り返りながら
僕は電車に乗った。
面接帰りの電車ほど憂鬱なものはない。考えてもどうしようもないことが頭をぐるぐると駆け回るからだ。
昼過ぎのせいか、人がまばらなことも余計寂しさを加速させる。多くの人に紛れることで自分も社会の一員だと思い込めるのにそれすら叶わない。
スマホでもいじって気を紛らわそうとズボンのポケットに手を突っ込む。
しかし真っ先に手が触れたのは固いスマホの感触ではなく、くしゃくしゃな、、紙?
それは座席の隙間に挟まってたであろうレシートだった。

誰だよこんなとこに捨てたやつは。
いるよな、他人の迷惑を考えないやつ。
そんなやつでも働けてるのに、なんで自分は、、。

現実逃避のつもりが、思考は現実を突きつける方向へと動く。

こいつは何を買ったんだ?

必死に他のことを考える。

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観葉植物専門店 individ
パキラ5000円
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観葉植物か。
そういえば小学校の時、各々育ててた朝顔なりプチトマトなりを一定数は枯らしていたのに、僕だけは何一つとして枯らさなかったからそれだけが自慢だったっけ。
僕の真面目さが評価されてたのはあの頃からだな。

また昔を思い出す。

このお店ちょうどここが最寄りだな。
どうせ家に帰っても気持ちは引きずるだけだし、気分転換に買って帰るか。

そうして僕は電車を降り、観葉植物ショップへと向かった。


少しして着いたのはなんだかカラフルな店。
モンステラやサンスベリアといったホームセンターに置かれているようなものだけでなく、カラジウムやココヤシなどといった聞いたことがない変わり種も多く取り揃えられていた。
その中でも一際美しく感じる赤い花があった。
思わず見惚れていると奥から店員が出てきて僕に話しかけた。

「何かお探しですか?」
僕は少し慌てながら答えた。

「あ、いや、気分転換になるようなものを部屋に飾ろうかなと思って。この花とても綺麗ですね。」

「そうなんですよ!これはグズマニアと言って南アメリカなどの植物なんです。赤の他にも黄色のものあるんですよ。ただ少し手入れに手間がかかりまして。直射日光に当てると、綺麗な色にならなかったり、寒さに弱いので最低10℃以上をキープしないといけなかったりするんですよね。」

でも僕ならきっと育てられる。

今までの経験からか直感的にそう感じた。
その時ふと気づいた。

ああ、そうか。この植物はとてつもない個性の持ちで、今の僕とは真逆だ。しかし環境が整わなければ自慢の花を咲かせ個性を発揮することはできない。それは人も同じ。だから僕は個性的になろうとするのではなく、真面目さを生かして様々な人が個性をいかんなく発揮できるようなサポートをすることができるのではないか。

なんだか急に道がひらけた気がした。

「グズマニアください!」

家に帰って元気に咲いているダズマニアを見れば、僕はもう道を見失うことはないだろう。
次こそは勝つ。
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