Something completely different.

文字数 1,274文字

「あ、その願いでしたら、総理大臣閣下が御自分の魂を売る必要はございません」
 呼び出した「悪魔」は、私に向かってそう言った。
「どう云う事だ?」
「ええ。その願いを叶えますと……この国の人間が、多数、死後に地獄に堕ちるような状況を引き起しますので……。そう……神を呪い……そして、我々を呼び出し魂を売ってでも、自分だけは助かろうとするような状況にね……」
「ますます意味が判らん。たしかに私は悪魔(おまえ)の力を借りようとしているが……目的も予想される結果も正しいもの、我が国民を救う事に繋がる事の筈だ」
「我々にも職業倫理や競合他社との商売上のルールがございます。我々の職業倫理と、我が社の商売敵である『公益法人・天国』との協定に基き『正しい目的の為であれ、悪魔(われわれ)の力を借りればロクな事にならない』と云う警告は行ないました。地獄への道は善意・悪意のいずれでもは舗装されておりません。近道に見える道こそが地獄への道でございます」
「だから、何を言っているんだ? 私の願いを叶えるのか? 叶えないのか? どっちだ?」
「では、最終確認でございます。『この国で、例の伝染病の流行を終息させる。この願いの効力は人類が存続する限り』。この願いを叶えて問題は有りませんか? Yes/Noが明確に判る形で、お答え願います」
「Yesだ」

 翌日から如何なる検査方法をもってしても、例の伝染病の新規陽性者は1人として検出されなくなった。
 最初は統計の不正や改竄を疑う者も居たが……実際にそうなのだから仕方ない。
 閣僚達は、自分の手柄にしたがり……そして、私は、あの伝染病を終息させた総理大臣として歴史に名を残す事が確実になった。
 ……ただし、あの伝染病の終息宣言から一〇日経たない内に、私の名は歴史に残るにせよ……名は名でも悪名の方になる可能性が高くなった。より酷い事態が進行しているのに警戒を解いてしまったマヌケとして……。

「待て……どう云う事だ?」
「ですので、人口五〇万以上の都市に有る病院の9割以上でICUが満杯になっています」
 専門家の代表は、私にそう説明した
「あの伝染病の新規感染者は(ゼロ)になった筈だろう?」
「ええ。どうしてかは全く不明ですが……」
「なのに、何で、ICUが満杯になる?」
 その時……私は、ある事に気付いた。
「新規感染者が(ゼロ)になる前に、既に罹患していた者たちはどうなった?」
「これまた、どうしてかは全く不明ですが、陽性反応が消えました」
「治ったと云う事か?」
「いいえ」
「だから、どう云う事だ? 意味が判らんぞ」
「ですので、陽性反応は消えたのに、病状はそのままです」
「はぁ?」
「そして、あの伝染病に症状はそっくりなのに、あのウィルスの陽性反応が出ない病人が、次々と病院に担ぎ込まれ……いえ、もう、入院先はほとんど残ってないので、誰かが死ぬまで入院する事は不可能ですけどね……」
「だから、何が起きてるんだ? 判るように説明しろ」
「ええ、ですので、あの伝染病の流行は完全に終息しました……。その代り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」
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