第1話
文字数 886文字
恋は盲目とはよく言ったものだ。
今思えば何であんな人のことを好いていたのか微塵も分からない。
・・・・・・否。分かりたくないだけか。
僕は有り体に言えば失恋をした。人生で初めての彼女だった。
自己中心的な言動が目立つ彼女だった。
お金も僕が出して当然と公言するような彼女だった。
不満があれば直ぐに拗ねる彼女だった。
だけど。大好きだった。
ある日僕が体調を崩したことがあった。
毎日していた電話もその日ばかりは出来そうになく断った僕を彼女は「私よりも自分の体調を優先するんだね。」そう言って批難した。
彼女が生理で苦しんでいた時遠距離ながらもできることをと必死でネットを探した。
見つけたツボや食べ物、ストレッチなんかを共有すれば「そんなので治ると思うの?」と言われる。
それで戸惑った僕が「なにかして欲しいことがあれば遠慮なく言ってね」と言えば「そういう人任せな所嫌。他人事なの?」と怒られる。
そんな日々が続いた。
遠距離ということもあり会えるのはとても貴重だった僕ら。
新幹線の駅で集合。
始発に乗って既にクタクタの彼女。
手には荷物を沢山抱えてこれから始まる夢のような一日に期待をふくらませて抱きしめ合った。
数ヶ月前から何回も考えたプランがあるにもかかわらずお互いに大好きなカラオケで結局時間が潰れてしまった初デートの日。
くせっ毛な僕の髪を愛おしそうに見つめて髪を整えてくれた彼女。
バイバイ。またね。その言葉の重さを分かっているから中々離れられなくて新幹線を1個遅らせた2回目のデート。
高いところが怖くて震えていた僕を楽しそうに笑った彼女。
晩御飯を食べに行く時間もなくてコンビニで買ったお弁当を真冬の公園で食べたりもした。
あぁ。そうか。
僕は彼女が大好きだった。
自己中心的な所も理不尽なところも。
人は失って始めてその偉大さを知る。
まさにその通りだ。
今彼女は何をしているのだろうか。
SNSは全て切ったので分からないが今日も元気にあのひまわりのような笑顔でいて欲しい。
バイトで疲れたら溺愛している猫に構ってもらえているだろうか。相変わらず自分の布団におしっこをされているかもしれない。
バイバイ。またね。