日常

文字数 919文字

 日曜日の夜は眠れない。寝たらあっという間に月曜日が来てしまう気がするから。意味もなく画面を起動したスマートフォンは、もう月曜日を迎えているけれど、私の中では眠るまでが日曜日だ。
 どうせ月曜日になれば仕事は頑張るし、金曜日まで駆け抜けていくというのに、どうしてこうも毎回憂鬱さが抜けないのだろうか。

 時間帯を気にして、ボリュームを下げたテレビから録画していたバラエティ番組がエンドレスで流れている。
 そうでもしないと、思考があっという間に夜に飲み込まれてしまいそうだった。深夜にする考え事はろくな結論を出さないとわかっていても、この夜ばかりは止まらなくなる。

 職場で言われた嫌味が月曜日にも続いているような気がしてきたり、駅のホームを歩いている時、後ろからぶつかってきた人が舌打ちをしたシーンが頭にリプレーされたり。
 日常とは関係ないところで言うと、自分の才能のなさにうんざりしたりする。才能がない、という現実が苦しくて「趣味だから」を言い訳に使っている自分に気づくと、遣る瀬無い。体の中が空っぽになったような寂しさを覚える。

「ハックション、チクショーあ゛あ゛あ゛!」
 同じアパートに住むどこかの誰かが、くしゃみついでに叫ぶ声がして、心臓と肩が震えた。
 囁くような音でテレビを見ている自分が馬鹿馬鹿しく思えるほど、大きな声で三回、そのくしゃみを繰り返している。何かに紛れ込ませて叫ぶ誰かが羨ましいと思った。
 だからといって、テレビのボリュームを上げる気にはならないし、大きな声でくしゃみをする勇気もない。
 そもそも、大きな声を出すことも聞くことも好きじゃない。

 もう一度、無意味にスマートフォンの画面を起動する。こんな時間だ。そろそろ寝なくちゃ、朝起きられなくなる。
「ハックション! あ゛あ゛あ゛!」
 どこかの誰かがまた叫ぶ。
 何か嫌なことでもあったのだろうか、それともこれからあるのだろうか。

 私は叫ばない。でも、今夜は囁き声の、ベッドに入れば聴こえなくなるような音のテレビをつけっぱなしで寝てしまおう。
 空っぽで普通の私は、それでも月曜日を迎えに行って、全速力で金曜日へ連れて行くのだ。金曜日のこの時間には少し満ち足りた私が待ってる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み