▶️ 一人称異世界転生
文字数 900文字
黒い人間の群れがぞろぞろ同じ方向に歩く駅の階段の途中で俺の鼻腔は何に反応したのか、やたらとムズムズした。
何がマズイのかというと、クシャミである。
俺のクシャミには破壊力がありすぎるのだ。この間など、クシャミしたせいで世界を滅ぼしてしまったほどだ。その時は仕方なく平行同時世界とより合わさった可能性接点を強引に修正して世界を作り直したのだが。
それでなくても、同じクラスの女子の目の前で。
あの時の彼女の目。忘れられない。
間違いなくそう考えたに違いない目だった。そうだよ俺はヌートリアと同じレベルだ。変な音を立てる変な物体だ。カピバラは可愛いのにヌートリアは薄汚い害獣だ。ぼろぼろの毛皮にドブ色の身体。俺はヌートリアだ。彼女の目に映る俺は
気が付いた時。俺は階段から転げ落ちていた。天国の階段だ。あの世が見えた。エスカレーターだ。さっきまでどよめいていた黒い人間、サラリーマン、学生、汗だくの奴らがなんだよこのヌートリア、みたいな目で俺を見ていたはずなのに。
真っ白な、ネグリジェみたいな、ストンとした服を着た白い奴らに変わっている。そいつらがエスカレーターに乗ってひたすら向かうのと同じ方向へ俺も向かっている。
眩しい。なんだよこれは。何の冗談だ。ちょっと待て。俺は別に天国の階段(エスカレーターを昇りたかったわけじゃない。ただ他の目立たない連中と一緒に、ごく普通に、大人の階段を下って行きたかっただけだ。ちょっと、嫌だ、降りる。俺は降りるから。やめろ、どこへ連れてく気だ…!!
そこではっと我に返る。
俺は異世界へと転生する。
赤ん坊になり、新たな世界で新たな冒険を道を歩むのだ。その伝説を今から語ろうじゃないか……!
……と思ったが。