第1話

文字数 2,046文字

 真夏ちゃんは、1週間前から入院しています。病気のことは難しくて分からないけれど、お腹が痛くなる時がしょっちゅうあるのです。でも、真夏ちゃんは、とっても元気。今もママが用意してくれたレターセットでお手紙を書いています。



パパへ

いっつも遊びにつれていってくれてありがとう。まなつはパパがだいすきです。あまりおさけはのみすぎないでね。



ママへ

いっつもごはんをつくってありがとう。まなつはママがだいすきです。たいいんしたら、ママのハンバーグが食べたいです。



トモへ

いっつもおなかでおひるねさせてくれてありがとう。まなつはトモがだいすきです。もうおじいちゃんなのだから、ひるまはあついから おそとへいくのがまんしてね。



ペットのトモへ手紙を書き終えたところで、真夏ちゃんはいいことを思いつきました。

「そうだ!あの子へもおてがみをかいてみよう」



あの子はあの子。名前さえ知りません。でも、大丈夫!だってその子は、隣の病室の子だから。



おげんきですか?ちりょうをがんばりましょう。わたしとおともだちになってください。



きらきらした星のびんせんに大きな文字でそう書いて、真夏ちゃんは隣の病室のドアにはさみました。



 2日後、夜窓をあけると隣の病室から、声が聞こえてきました。

「お星さま。お手紙ありがとうございます。私もお星さまとお友達になりたいです。そして、病気もなおりたいです」



あの子、私の手紙、お星さまからだと思ったんだ。そういえば、じぶんの名前もかいていなかった。明日、声をかけてみようかな?



 朝になり、真夏ちゃんはそっと隣の病室をノックしました。

「はい」

そろりとドアを開けると、あの子が目を丸くしました。

「あなたはだれ?」

「わたし、ひいらぎ まなつです。おともだちになってください」

その子は名前も言わず、ぷいっとしました。

「おことわりよ」

「どうして?」

「どうせ あなたもすぐに退院するんでしょ。私はずっとここにいるの。そんなのいやじゃない?」

「たいいんしても、おてがみ、かくよ」

「ほんと?」

「うん。ぜったいにずっとともだち」

「わたし かがみ あきな。小学校5年生」

「あきなちゃん、わたし まなつです。小学校3年生。よろしくね」



 二人はそれから色々おしゃべりしました。

二人はとても仲良しになりました。



 ところが真夏ちゃんの退院が近づいた日、大げんかが勃発しました。

「私の病気は治らないの!」

「絶対治る!」

「自分が治るからって、どうしてそんな間違ったことが言えるの!」

「あきなちゃんの病気も絶対治る!まなつ、信じているもん!」



明菜ちゃんも真夏ちゃんも泣きました。

(あきなちゃんの病気が治らないはずない!)

真夏ちゃんは心の底から真剣にそう思っていました。



おちついた明菜ちゃんが、

「私は手術できない脳の場所に悪いものがあって、永遠に治らないんだよ」と真夏ちゃんに説明しました。

真夏ちゃんはそれでも

「あきなちゃんは絶対治る!」

と言い張りました。

明菜ちゃんは、純粋に治ると信じている真夏ちゃんを前に悲しいやら腹だたしいやら、可哀そうやらで、これ以上何も言えません。

「そうだ!あきなちゃん。お星さまに手紙を書こうよ!お星さまが願いを叶えてくれるよ」

真夏ちゃんは、お星様と天使が一緒に書いてある便せんを取り出しました。

「うわぁ、かわいい♡」

明菜ちゃんは、思わず便せんを手に取りました。

「でしょう?お星さまに手紙を書こう」

「私、前にお星さまから手紙をもらったことがあるんだ」

明菜ちゃんが告白すると、真夏ちゃんはにっこりして

「お星さまが絶対に願いを叶えてくれるよ!」と言いました。



二人は「これからも仲良くするので、病気をなおしてください…。」とその便せんに手紙を書いたのです。



 真夏ちゃんは、次の日退院していきました。

明菜ちゃんは、真夏ちゃんの退院を羨ましく感じませんでした。

だって自分も治って退院できる!と信じ始めていたからです。



 真夏ちゃんは、頻繁に明菜ちゃんに手紙をよこしました。



 2か月が過ぎ、明菜ちゃんが真夏ちゃんに手紙を書いていると

「明菜!ようやく治療法が見つかったわよ!よくなるわよ!」

と、お母さんが駆け込んできました。

「どういうこと?」

「新しい治療薬を試せることになったの。これで退院できる。学校にも通えるよ」

明菜ちゃんは信じられない気持ちでした。



 真夏ちゃんは、星の上からその様子を見て、喜びました。

「真夏。良い仕事をしたわね」

真夏ちゃんのお母さんが言います。

「真夏の初仕事が友達を幸せにすることだなんて、お母さん鼻が高いよ」

「だってあきなちゃんは、人間の世界ではじめてできた大切なお友達だもの。がんばったよ」

「病気の子どもをこの世からいなくさせるのが真夏の夢か」

「うん!世界中の子供たちを元気にするの!あきなちゃんから、すぐに手紙がきそう。私も返すの楽しみ!」



 天使と友達になって文通しているなんて、きっと明菜ちゃんだけと思うかもしれませんが、もしかしたらあなたの隣にも天使はいるかもしれませんよ。



おわり

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み