全1話 約700文字

文字数 722文字

 あたしは、この国で生まれました。
 あたしは、この国から外に出たコトはありません。
 この国の仲間の中には、昼間は元気がなく眠っていて、夜になると元気になる仲間もいます。
 母も、あたしと同じこの国の生まれで。父は別の国からやって来たそうです。
 父と母の何世代前の祖父や祖母は、広々とした世界で自由に走り回っていたと……父と母が語ってくれました。
「お母さんも、実際にその世界を見たワケじゃないけれどね……この国より、ずっと広い世界で。その世界では、のびのびと暮らしていたみたいよ」
「広い世界では、お客さんが動く箱の中から、わたしたちを見るそうだ」

 父と母の話しを聞かされても、この国しか知らない、あたしにはピンッときません。
 この国の仲間の中には「騒がしい客の顔を見るのは鬱陶〔うっとう〕しい。少し前の客が、誰も来なかった時の方が。自分はスッキリしていていい」
 と、言う仲間もいますが。あたしはお客さんの喜ぶ顔を見るのが好きです。
 あたしたちの世話をしてくれている人たちも、お客さんがいなかった時は顔にマスクをしてどこか寂しげでした。
 たまに、お客さんが一日来ない日もありますが。
 どうして急にお客さんが一人も来なくなったのか? あたしは不思議でした。
 あたしたちの世話をしてくれる人の暗い表情を見ていると、あたしの気持ちも沈みました。

 今は少しづつ、お客さんが増えてきました。
 なぜかお客さん同士で間隔を開けて、お客さんは全員マスクをしています?
 それでも、お客さんに会えてあたしは嬉しいです。

 お客さんのパークへの来園を、首を長くしてお待ちしています……あっ!! あたしの名前は『キリン』です。

~了~
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